016 黄花はどこだ(2)名医 黄庵

月夜ルナたちがいる場所から3つ先の村に、黄庵おうあんという医者がいた。


桜庵は今まで光元国ひかりもとこくにいた医者とは大きくことなっていた。


医者というものは、患者かんじゃに手を当てたり、話を聞いて薬を出す商売だった。そして、非常に高い。貧乏人びんぼうにんには払えるものではなかった。


それに対して、桜庵は『温かい酒を飲むための小さなうつわ2つを糸でつないだような物』を身体のすみずみに当てて音を聞いていた。もちろん薬も出すが目の前で一回だけ飲ませた。また、飲む前に約束をさせられた。

お代は、一般人の時給と医者の時給の真ん中くらいだから安いと言えるだろう。


黄庵おうあん

「薬は効き目が強いため、わたしの前で飲んでもらいます。 人によってわないが有ります。 ですから、飲んでから2時間はここにいてもらいます。 ご予定は大丈夫ですか?」


患者かんじゃ

「はい、大丈夫です。

 それで、お代はいくらですか?」


黄庵

「これだけ、もらいます。」


 金額が書かれた紙を見せた。

 必要な金額の数字と、必要なお金をイラストにしてあった。


患者

「これで良いですか?」


 患者は、おさらにお金を置いた。


黄庵

「では、診察しんさつします。」


患者

「先生はいつも前払いですね。」


黄庵

「医術は、2つ半です。

2の仁術じんじゅつでも、3の算術さんじゅつのどちらでもありません。」


患者

「「今はお金がないので、後で払います。」

と泣いて頼まれたら先生はどうしますか?」


黄庵

「もちろん、お帰りいただきます。

患者に同情していたら、タダ働きになりますからね。」


患者

「冷たいですね。」


黄庵

「それなら、あなたが代わりに払えば良いではありませんか?」


患者

「それはイヤですね。

他人にタダ飯食わせる気はありません。」


黄庵

「それで良いのです。

高利貸しと組んで儲ける医者よりはマシと思ってくれたらいいです。」


患者

「ごめんなさい。」


黄庵

「それでは、あなたの身体の音を聴きますから、静かにお願いします。」


患者は、無言でうなづいた。


黄庵は、しばらく患者の身体中の音を聞いた後で、身体中を指でたたいた。


黄庵

「お待たせしました。

薬を作りますので、温かいお茶を飲みながら待っていてください。


それから、タバコは吸わないでくださいね。」


患者

「はい、分かりました。」



しばらくして戻って来た黄庵の薬を飲んでから、黄庵と患者は話していた。


患者

「えっ、酒も駄目ですか?」


黄庵

「酒は30分間を走り続けるよりも身体に悪いからです。あなたは病人に走れと言いますか?」


患者

「言いません。治るまでタバコと酒を我慢ガマンします。」


黄庵

「お酒を飲むことは身体を棒でたたくようなものです。 たまに飲むくらいでも多すぎるくらいです。」


患者

「先生はきびしいや。」



患者は、元気になって帰っていった。


黄庵

「聴診丸(ちょうしんまる)、いつもありがとう。

あなたのおかげで今日も患者を治すことができたわ。」


黄庵は、『温かい酒を飲むための小さなうつわ2つを糸でつないだような物』を聴診丸と呼んで、ほほに当てていた。

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