帰り道

「パパ、元気でねっ今度文化祭に来てよ。透夜、アンタは絶対来なさい! かなえの彼氏なんだから!」

「じゃーまたどっかで、ぱーぱ、透夜クン」

「短い時間でしたが、とても楽しかったです。与志也さん、透夜君」

「ふふ、なんだか2人から温かい気持ちが伝わってきます。本当に素敵な親子だと思います……羨ましいな」


 わいわいわい、とはしゃぐ眩しい表情。

 あっという間に学生の夏休みが終わろうとしている。

 戸鞠家専属家政婦であるリーナさんが運転するミニバンに乗り込んでいく。

 スライドしていく後部座席のドア。

 手を振る少女達の、笑顔と声が窓のフィルターでぼんやり、黒い影と輪郭となった。


「とてもいい子達でしょう?」


 見送ったあと、俺達は常務のベンツに乗って地元に帰る。

 後部座席で寄り添いながら眠る透夜と戸鞠かなえ。

 シルバーペンダントの錨が時折光って見えた。


「……まぁ、そうっすね」

「どうしました?」

「帰ったあとのことを考えるとね」

「自分のことですか? 彼女達のことですか? それとも、2人の」

「全部ですかねー」


 ふっかふかのシートに体を預け、車窓から海を眺める。


「彼女達は五十嵐さんと交流できて楽しそうでした。この先を支える糧になったはずですよ」

「ただ普通に遊んだり勉強したりしただけ」

「使命や目的、よりも一緒に過ごす時間を共有するのが大切でしょう?」

「そうっすね……」

「かなえが時々お泊り会を開いています。よかったらたまに顔を出してみてください」

「俺、おっさんだけど」

「顔を出すだけですよ。それ言うなら、僕もおっさんだ」

「アンタは父親で、家の主だからいいんだよ。まぁ、でも常務取締役の豪邸で寛いでいいなら、考えときます」

「えぇ歓迎します」


 豪邸を否定しない。


「というかベンツくださいよ、常務」

「別に構いませんよ」

「えっ」

「維持費は、さすがに負担できませんがね。かなえとの関係を考えれば、それぐらいはしますよ」

「あ、いや……冗談っす」






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