念願(常務視点)

 リーナ、もとい怜奈は静かに微笑み、寝室から出ていってしまう。

 まるでこうなることを見透かしていた様。

 薄暗い部屋で、大きなベッドに僕とかなえ。

 一緒に寝たいだなんて……。


「そんなに僕と寝るのが楽しみなの?」

「はい!」


 ニコニコと綺麗な瞳が笑っている。


「……智里の映像を見たのに?」

「はい!」

「そうですか」


 曇りのない笑顔で元気よく頷く。

 僕は横になり、天井を見た。

 隣からジッと僕を見つめる視線。


「かなえ、どうかした? やっぱり眠れないなら」

「いえ、お父さんと寝られるのが嬉しくて、目が覚めてしまって」

「偽物の父親ですよ」

「そんなことないです。お父さんは、ずっとお父さんです」


 理想の父親でもないのに……。

 明るく真っ直ぐに、僕をそう呼ぶ。


「ずっと緊張していたのに、なんだかお父さんが可愛らしく思えます」


 可愛い?


「……誤解がとけたようで何より。そうだ、僕の書斎にどうやって入り込んだんです?」

「え、リーナさんに開けてもらいました」

「なるほど」


 怜奈、余計なことを……つまりあれは、かなえが書いたのか。


「メッセージカード」

「はぃ?」

「あれは、かなえが書いたもの?」

「は、はい」

「名前がなく、てっきり家政婦が書いたものかと」

「あ、あの時はとにかく必死だったんです。いつもリーナさんが言ってる言葉をそのまま書いて……うぅまたチャレンジしますね!」


 失敗してもめげず、立ち向かおうとする姿勢は素晴らしい。

 百面相のように表情がコロコロと変わる。

 今までならあり得なかった……彼女は周りに囲まれ、幸せに満たされている。

 彼女が念願だと言っていたこの時間は、僕にとっても大切な時間。


 かなえ、君はこれから、透夜君と歩んでいく。 

 困難を極める壁にもぶつかるだろう。

 どうか曇らず、智里が繋いでくれた命を大切にしてほしい……。


「えぇ、楽しみだ」


 幸せだと思う道を一直線に進んでください。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る