強い子
「だから、強く惹かれたんですね」
静かに、ハッキリ。
微笑みも怒りもない、真っ直ぐに俺達を見つめる澄んだ瞳。
「初めて会ったのに、初めてじゃないような、ちょっと不思議な感じがしました。お父さんと会う時は緊張するのに……なんでだろうと疑問もありました。恋人よりも兄妹にみられることが多いのも、そういうこと、だったんですね」
情けないほど黙り込んでしまう。
俺も、透夜も、常務までも。
「理想の父を思い描いた時に、五十嵐さんと重なったのも、そういうこと。なんだか、一気に力が抜けそうです」
「五十嵐さんが、理想の父親ですか」
寂しさもある細く呟いた常務は、俺を弱々しく見る。
「透夜君と結婚、できませんね」
困り眉で、哀しく細めた瞳。
ぎゅっと握りしめ合う、張りのある指先たち。
「でも、一緒にいられます。私と透夜君は切っても切れない、絆があるんですから」
肌身離さず身に着けている錨のペンダントが光った、ような気がした。
「う、うん」
涙をこらえる震えた頷き。
やっぱり、不安がっていても強い子だ。
「僕は、父親失格ですね。娘を何不自由なく生活させたい、その一心で出世を目指していた。本当は、一緒にいる時間を作るべきだったんでしょう……五十嵐さん」
「そうだな」
出世欲はないが、平凡に仕事をして、家族で生活できるくらいの稼ぎがあればいい。目立たず、のんびりと、それでいいと思っていたが、結局仕事ばかりで、俺も常務と同じで時間を作らなかった。
「透夜と、戸鞠さんは、同じ気持ちでいいんだな? これからも別れず、一緒にいたいってことで」
「うん」
「はい」
「だって、常務。俺は2人の意見を尊重する」
「……かなえの選んだ道が幸せなら」
別れてほしいって散々言っていたけど、純粋に愛し合ってる2人を見たら、何も言えないだろうな。
とにかく俺たち大人は、
「本当に、すまない」
「ずっと黙っていて申し訳ありませんでした」
謝ることに徹した。
どれだけ謝罪と後悔をしたって変わらないのは分かってる。
でも謝らないと、この先進めない気がした。
許してほしいなんて思わない。
きっと今なら罵倒さえ甘く感じてしまう。
「母さんに言うの?」
「そう、だな。言わなきゃな、きっと取り乱すかも……俺と智里の子だって知ったら……どんなに気が強くたって、な」
「だったら、言わなくていいよ。母さんが悲しむところなんか、絶対見たくない」
「俺も」
さっきまで不安で強張ってた透夜が、逞しいことを言うなんて……。
一方戸鞠さんは、俯いている常務に寄っていく。
「あの、お父さん」
「嘘をついた私のことを、そう呼んでくれるんですね」
すげぇ気弱になってる。
戸鞠さんは、微かに唇をきゅっと締めた。
「お願いしたいことが、あるんです――」
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