話をする覚悟
半畳の書斎。アルバムを開けて懐かしむ常務がいる。
男前なうえ、慈しむような眼差しの先は智里か、戸鞠さんか。
「それで、なんでしたか常務取締役」
「さっきかなえは何を言いたかったんですか?」
「……本人に聞いてくださいよ。で、仕事ですか、それとも例の件?」
「かなえのこと。真実を話したくないワケと、今後の」
別れてほしいけど、戸鞠さんに真実を話したくない。その葛藤にまみれている常務は、深刻な表情で俺を見た。
「事態が重くなるっていうのは?」
「かなえが全てを知った時、家族の関係が大きく変わってしまう」
何を不安がっているのかと思えば、拍子抜けしてしまう。
「何度も言うけど、生みの親より育ての親でしょ。17年一緒なんだし、今さらひっくり返らない」
「かなえと一緒に過ごした時間をどれだけかき集めたところで、2年も満たない……かなえの中で、何か、とんでもないものが芽生えたら、と思うと怖い」
「とんでもないものって?」
「たとえば、僕を異性と認識、したり」
あまりにも深刻に考えすぎだろ。
「ナルシストかよ」
「実際五十嵐さんより良いですしね」
「ぐぅーっ!! 言い返せないのが腹立つなぁ。俺のこと嫌いすぎか」
「冗談です」
どこまでが冗談なのかさっぱり分からない。
べらべら人のことを喋るのは良くないから黙ってたけど、こいつの進まない態度に口が動く。
「あのさ、かなえさんが智里の写真を見たことがあるんだってさ」
「…………え、ど、どこで」
手元のアルバムを落とす。珍しく狼狽えている。
「常務の書斎。何度か出入りしたことがあって、机の写真を見たって」
「僕がいないときは施錠していたはずなのに、どうやって……いえ、それで?」
「重ねて見られてるんじゃないかって不安がってた」
アルバムを拾い、棚に戻す動作のあと、常務は深いため息を吐く。
「僕は、似ているからって智里と重ねたりしない……かなえは、戸鞠家の子供だ」
「不安なら俺が、話すよ。俺の浮気が原因でこんなことになってる以上、責任は」
「今さら責任もどうもないでしょう。戸鞠家を守らないと!」
「あーもう、アンタの身勝手で透夜が不幸になってたまるか! 透夜は聞いちゃったんだ、それをなかったことにはできないだろ! これ以上透夜が苦しまないよう、話すしかない。お願いだから、戸鞠幸太郎、覚悟決めてくれ……アンタの娘は思ってる以上に強い子だ、愛してるなら、信じてあげてくださいよ」
常務は腕を組み、黙り込んでしまう――。
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