お悩み相談

「一緒に寝たいんですっ」


 枕をぎゅっと前に抱えて、俺と透夜の部屋に居座る戸鞠さん。


「えっここで? さすがにまずいぞそれは」


 若くて健康的な獣がいるんだから。


「父さんと一緒にすんなよ」

「いやいや俺常識人よ、心入れ替えて家族の為に頑張ってんだっての」


 一度きりの過ちを、身内にも突かれる悲しさ。


「違います、父と一緒に寝たいんです」

「えぇ……」

「そういえば念願がどうとか言ってたね。頼めばあの人なんでもやってくれそうだけどな」


 娘限定で。

 戸鞠さんの抱える枕がどんどん細く、皺くちゃになっていく。


「父に直接お願いするのが、学園集会の檀上で演説するよりも緊張します!」

「そ、そんなに?」

「かなえはなんであの人といると緊張するの。父親、なんでしょ」


 ふてくされた言い方。

 透夜は知ってしまった。常務と戸鞠さんが血の繋がらない親で、自分とは兄妹だってこと。

 嫉妬を常務に向ける未熟さと、虚しさが言葉を重くさせてしまう。


「だ、だってこんなに長くいるの最近になってからなんです。それに、尊敬すべき人ですから、一緒に寝たいなんて言うのは失礼な気がして……」

「なかなか拗らせてるなぁ」

「また明日にすれば?」


 先延ばしをさせようとする透夜は、寝転がると腰に手を絡みつかせた。

 甘えて抱き寄せては、指を絡めて遊ぶ。

 平常運転なのか、戸鞠さんは気にせず悩み続ける。

 どうしたもんかねぇ……。

 ふと、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「どうぞー」

「失礼します」


 渋い声が入ってきた。

 なんというタイミングで入ってきたんだろうか、多分最高と最悪の中間ぐらい。

 常務の姿に背筋を伸ばした戸鞠さん。

 透夜は反射的に体を起こして、ベッドに座りなおす。


「おや団欒中でしたか」

「……お悩み相談を受けてたところ。娘さんが常務にお願いごとがあるみたいっすよ」

「僕に?」


 目と口がいつもより大きく開く。


「ひゃっ! ま、待ってください。なんでもないです!」


 戸鞠さんは枕を抱えて立ち上がった。

 このまま勢いで言ってしまった方がいいと思うけどなぁ。

 なんでもない、と声を裏返した戸鞠さんに、常務は微笑んだ。


「お願いごとが決まったらまた教えて。五十嵐さん、少し仕事のことでよろしいですか?」

「は、はい」


 さらりとチャンスは流れていく――。

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