お墓参り

 別荘から車で15分ほど、海が良く見える霊園を歩く。


「戸鞠かなえに会うまで、智里のことはほとんど忘れてた」

「そんなものです。幸せなら尚更」

「透夜との関係すら大した問題とも思ってなかった。時間が経てば大人になって、そのうち俺の苦労が分かるだろって感じでさ」

「全てかなえがきっかけで?」

「そう。智里のことを思い出したし、透夜との関係を放置するのも駄目なんじゃないかって危機感も芽生えた。彼女が何かと引き寄せるのかな」

「僕はそういう、運命的なものが大嫌いなんですよ」


 前にも言ってたな。

 偶然では片付けられないぐらい綺麗で、残酷なもの。

 学校の交流会で、俺と智里が出会ったように、透夜と彼女が出会うなんて……運命なのか、因果なのか。


「はいはい、で、もう決めたのか?」

「えぇ」


 白タイルで仕切った小さな墓石の前で、常務は立ち止まった。

 墓石の正面に柊木、側面に小さく智里と彫られている。


「僕の考えはやっぱり変わらない」

「じゃあ透夜になんて言えばいいんだ。透夜から別れを切り出せって? そんなの残酷過ぎる」

「かなえのことを考えれば考えるほど、事態は重い方向に傾く。とにかく今は、智里のことを」

「あぁ」


 智里の墓。

 俺達が生きているこの世界に、智里はいない。

 常務が用意してくれた線香と造花。

 ろうそくから火を移す。

 ゆっくりと灰色に染まる。

 しゃがんで両手を合わせた。

 特に何を言うわけでもない、暑い日差しのなか、汗が顔中をつたう。

 海からの風が心地よく肌を撫でる。


「……」


 線香が全て灰になり、常務は立ち上がった。


「何か話しましたか」

「俺に……そんな資格ない」


 ゆっくり立ち上がり、「そうでしたね」と微笑む常務を睨んだ。

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