とにかく回せばいい
性犯罪予備軍だの冤罪の温床だの自分のことばかり考えていたけど、つい数分前堂野前さんが泣いていた。
萩野間さんと一緒にどこかへ行ってしまったが、保護者として様子を見に行った方がいいんだろうか……それともここはあえてみんなに任せた方がいいのか。
とりあえずリビングにいる子たちに訊いてみよう。
「パパ、仕事はもうよかったの?」
「う、ぉあー休憩中」
早速パパと呼ばれてしまう。
透夜は大きな溜息を吐き出し、久しぶりに妻直伝の睨みを浴びせてくる。
「人の話聞いてないし。あのさぁ、父さん」
「わ、分かってる。何も言わないでくれ、透夜……俺が悪いんだ、ごめん」
「あの、みなさんと仲良くできてる証拠です! 透夜君、五十嵐さん、良いことですから、夏休みのひと時だけ、家族ですよ」
戸鞠さんの純粋に満ちた微笑みに、お互い目を見る。
「そうだな、なー透夜」
「はぁ……まぁ、そうだね」
ここは、アウェー過ぎる。
「家族ですって、
斎藤さんは、強気を張り付けた美しい顔立ちにニヤリと、反対側のソファを向く。
相変わらずソファとべったりの八百原さんがいる。
ソシャゲに夢中な八百原さんは、
「せやでー」
関西人でもないのにテキトーな関西弁で相槌。
「ちょっと、話聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
スマホから目線を外した。
明るい茶髪で前を切りそろえたボブショートと黒縁メガネの奥の垂れ目を、斎藤さんに向ける。
涎を垂らして走り回る犬がプリントされたTシャツに目がいく。
かなりデフォルメされた角張った体に、大きな口を開けて牙剥き出し、今にも噛みついてきそう。
どこか愛らしさもある。
「ずいぶん、可愛らしいシャツだね」
「おっ」
垂れ目が少し大きくなる。
「ふふ、お目が高いじゃーん」
小さな唇を上向きにして、スマホを差し出してきた。
「え、なに?」
「あら光栄じゃない。回させてあげるってこと」
「どぞ」
「あ、あぁーどうも」
よく分からないが、『10回召喚』を押してみることに。
派手な演出というか、眩しい光を放ち、いくつかカードみたいなのが10枚表示される。
「SSR確定、やったね、ぱーぱ」
「お……はぃ」
気だるい感じに「パパ」と呼ばれてしまい、気の抜けた返事をしてしまう。
「じゃなくて、堂野前さんは大丈夫なの? 泣いてたみたいだけど」
本題を聞いてみると、斎藤さん、八百原さんは真顔。
振り返り、戸鞠さんを見ても、特に心配する素振りは見せず、傾げ微笑んでいる。
「学校でも舞乙さんはそうなんです。どうしてか舞乙さん自身も分からないみたいでして」
「大半はかなえのせいでしょ。聖母のような優しさが、涙腺を刺激するのよ」
「それもあるけど、他人の感情に敏感。だから、無感情の葵と相性いい」
他人の感情に敏感……そして萩野間さんは無感情。
「葵は無感情というか、割り切ってるだけじゃない」
「そうともいう。透夜クン」
突然名指しされた透夜は目を丸くさせた。
「え、俺?」
「あまり悲しむな……悲しいときは、回せばいい」
「はぁ?」
「ガチャをとにかく回せばいい」
名言みたく言ってるけど、大したことは言ってない。
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