集まった理由
「お待たせしてすみません。少し、準備に手間取っていたもので」
戸鞠常務取締役が最後に家政婦と共に現れた。
渋い声は否応なしにスッと耳に入ってくるから困る。
一体何をしていたのか知らないが、時間かかりすぎだろ……別荘のオーナーだからって関係ない、こっちは強引に呼ばれたのに。
「夏休みの間、この別荘を自由に使ってもらって構いません、常識内の範囲でお願いしますね。器物損壊をした場合は――」
モラルを保ち、適切な使い方をしてくれよ、という常套句を延々と述べた後、
「夕食までまだ時間があるので、リーナさん部屋までお願いします。五十嵐さん、少しいいですか?」
手招かれ、リビングと隣接した潮風が届くテラスへ。
丸テーブルの席につく。
各々自己紹介でもしているのか、少女達にハーレムみたく囲まれている透夜が見える。
「智里は海が好きだったんですよ」
「……へぇ、そうなんですか、初耳です。で、なんですか」
「奥様もついてくるかと思っていました」
ついてくるわけがない。
『お弁当作らなくていいし、洗濯物減るし、掃除の手間も減るし、自分の時間も作れるなら最高じゃない』
ハッキリ寂しいことを言われた。
正直俺がいなくても問題なさそうなのがまた辛い。
「俺と透夜がいない分、羽を伸ばすみたいですよ」
「それは何より。さて、彼女達を見てどう思われましたか?」
「どうって、別になんとも。やっぱり透夜は心変わりしないと思います」
「元々美術委員会の課題をするのに集まる予定でしたので、後付けみたいなところもあります」
なんだそりゃ。
「じゃあどうして、俺まで」
「智里のことを話そうと思いまして」
「は?」
「智里のお墓も近くにあります。また後でよければ、案内しますよ」
実はどこかで生きているんじゃないかって、淡い期待をしていたが、お墓なんて聞いたら脆く崩れてしまった。
「考えさせて、ください」
「構いません。智里はずっとここにいたので、彼女の遺品がたくさんあります。赤ん坊だったかなえと一緒に写ったアルバムも、2階の書斎にあります」
また書斎か。正直入りたくないような気もする。
嫌そうな顔を浮かべてしまったのかもしれない、常務は困った笑みを浮かべる。
「そんな顔しないで下さい。書斎は智里が使っていた時のまま遺してありますので」
それはそれで気持ち悪い。
「まぁ、考えます」
「十分です。よければ彼女達とも交流してあげてください、皆かなえのことが大好きでして、色々と話をしてくれますよ。もちろん透夜君の魅力を売り込むのもありです」
「仲人じゃないんですから……はぁ、保護者として話ぐらいします」
「えぇ、くれぐれも不純異性交遊は避けてくださいね」
ホント嫌な奴……――。
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