深夜のリビング

 真っ暗な寝室、横を向いたら枕を抱えて寝息を立てる妻がいた。

 眠れない。

 寝られたとしても、1時間おき。

 ゆっくり起こさないようにベッドから下りて、そっと扉を開ける。


「はぁ……」


 今すぐ解決できないことを考えても仕方ないのは分かってる。

 戸鞠常務みたく、淡々と言えるわけがない。

 透夜と戸鞠さんの悲しむ顔が思い浮かぶと、心臓が痛くなる。

 お茶でも飲もう……。

 リビングの扉越しに薄っすらとした明かりが漏れていた。

 透夜だろうか。


「あ」


 扉を開けると、透夜と目が合う。

 ぐったり疲れた顔をして、ソファに座り込んでいた。


「あーえー……こんな時間にどうした?」

「父さんこそ」

「いやちょっと喉が渇いたから、お茶飲もうかなって。透夜は?」


 黙り込み、理由を教えてくれない。

 最近、様子が変だ。

 学校で嫌なことでもあったのだろうか、突然デイキャンプに誘うし、俺が戸鞠さんと一緒にいても大して睨まなくなった。

 なんの心境の変化か分からないが、嬉しい反面、少しだけ恐怖心がある。

 冷蔵庫から麦茶が入ったポットを取り出し、グラスに注ぎ、口に含んだ。

 冷たいだけが喉を通っていく。


「あのさ」

「んぐ……な、なに?」


 あぶな、むせるところだった。

 透夜の横顔は俯いている。

 言い出しにくいのか、目は忙しく下と横に動かす。

 じわりと迫りくる、背中から全身を固める恐怖。

 吐息が強く漏れる音。


「俺ってさ、不倫の、子ども?」


 側頭部に一発もらった衝撃だ。

 目眩でまともに透夜を見られない……。


「…………どうした急に、悪い冗談は、やめろよ」

 

 問い詰めたら、本当だって言っているようなもので、俺は必死に笑って誤魔化す。

 透夜は、曖昧な表情を浮かべて立ち上がる。


「かなえのお父さんと話してるの……その、聞こえて……」


 さっき飲んだ麦茶が、逆流を起こす――。

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