キャンプ当日
泊まるわけじゃないけど、一応店員に勧められて日除け用にテントと、キャンプ用のガスバーナーや調理器具一式を購入した。
今日の戸鞠さんはパンツスタイル、透夜のキャップ帽子をかぶって、いつものペンダントもつけている。
うん、今日も可愛い……常務のせいで一段と可愛らしく見えてきた。
透夜はジャージに、お揃いのキャップ帽子。
俺にはないのかな、ないんだな。
「よし出発するぞ!」
「お願いします!」
「……します」
早速エンジンをかけて出発。
1時間かけて森林公園に向かい、1度だけコンビニ休憩を挟んで、山沿いの道路を走り続けた。
時折バックミラー越しに後部座席を覗いてみると、透夜の顔に覇気がない。
寝不足なのか、学校に行く時間もギリギリになってきた。
いつもの皿洗いでも1枚割るという、透夜にしては珍しいミス。
「透夜、大丈夫か? 今は、あー寝てていんだぞ」
「大丈夫……」
本当か?
「透夜君、まだ到着まで時間ありますから、無理しちゃダメですよ」
優しい戸鞠さんの気遣いに、黙って膝の上に頭を乗せて寝始める。
しかも戸鞠さんの方に体を向けて。
親より彼女か……まぁ、そうか。
「いっつもそんな感じ? 膝枕とか、なんか、抱き枕とか」
「はい、えと抱き枕は、寝やすい姿勢みたいです」
じゃあなに、普段透夜は寝る時抱き枕をして寝てるのか……はぁーなんか可愛らしい寝方だな。
「戸鞠さん抱きしめたまま寝てるってこと? 大変じゃない?」
「いえ、結局一緒に寝ちゃってます」
カメラに収めたい――。
「無事に到着!」
「はい!」
「……ふぁ」
大きな欠伸をかます透夜。
森林公園は公園とキャンプ地が上下に分かれていて、上に公園がある。
家族連れの活気ある声が聞こえるなか、俺達は下り道を進んでキャンプ用の駐車場に降り立った。
受付を済ませて予約してあるスペースに道具を広げる。
本格的なキャンプギアを使う人もいれば、キャンピングカーまで。
公園よりは静かな空間で、わいわい騒いでいる人は少ない様子。
「よし、早速テントを組み立てるぞ」
「はい、頑張ります!」
といっても、ワンタッチのテントなので正直気張らなくても簡単にできる。
インナーテントを広げて、真ん中のロープを引っ張るだけで形が出来上がった。
フライシートを覆い、四隅を繋げて、ペグを打ち付ける。
あとは棒を差し込み、入り口を広げてタープをつくって完成。
キャンプ用のイスを置くと、ちゃんとキャンプやってるみたいに見えるなぁ。
出来上がったテントにはしゃぐ戸鞠さんは、周りの自然環境といろんなテントに目移り中。
透夜は、どこかに行かないよう手綱の要領で袖を掴んでいる。
「こんにちはぁ」
年配の女性に声をかけられた。
バケットハットをかぶり、垂れ目と口元に笑みを浮かべる柔らかい表情。
「こんにちは!」
「どうも、こんにちは」
「……ちわ」
「頼もしいお父さんねぇ」
「えっあーありがとうございます」
そんな風に言われたの初めてだ。
嬉しいのと恥ずかしいのが両方やってきて、にやけてしまう。
「お子さん大きいのね、お兄ちゃんはおいくつ?」
「う」
兄妹だと思われている……いや、俺も遊園地の時ちょっと思っちゃったんだよなぁ、しかも合っているという事実。
「……17です」
「妹さんは?」
「私も17です」
「あらあら双子さんなの? 二卵性かしら」
「……ははぁ」
世間話をして、そのなかでキャンプ飯のレシピを教えてもらった。
ガスバーナーをセットして、事前に家でカットしてきた材料をクーラーボックスから取り出して、調理開始。
「慣れてるの? さっきの、兄妹ってやり取り」
「……別に」
「デート中もよく言われます。似てないと思うけど……雰囲気ですかね、透夜君はとっても頼りになりますから」
「かなえがあちこち行くからでしょ。俺が止める形になってるから自然とそう見える」
なんか、胸がざわざわする。
「そっか、そっか……」
水を温めている鍋の中を覗きながら、つっかえている事実を吐き出そうか、迷う。
せっかく透夜が誘ってくれたのに、台無しにしたくない。
「父さん」
「あ、あぁーどうした?」
「沸騰してる」
鍋の中から上昇してくる熱い水蒸気が額にかかる。
「うぉあつっ!」
仰け反って、しりもちをついてしまう。
「なにやってんだよ、もう……かなえ、パスタ取って」
「はい、大丈夫ですか?」
「あー大丈夫大丈夫、ごめん、ちょっと考えごとしてた。よし、気を取り直してキャンプ飯作るぞ」
ダメだ、余計なこと考えちゃ……――。
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