選択肢

 自身のどこを触れていいのか分からない、手が彷徨っている。

 腹違いの兄妹だって? 戸鞠さんが、俺の娘?

 信じられない……。


「かなえと透夜君には、何も知らないまま別れてほしい。でも、引き裂こうとすればするほど、惹かれ合うというのが人間の性だ。だから僕は、待っているしかない」

「……待て待て待て、勝手に話を進めるな。こっちはまだ動揺してんのに……うぅ」


 本当に淡々と迷いもなく言ってくる。

 全く飲み込めてないのに、目まぐるしく迫ってくる。


「申し訳ないが、もう決めないといけない所まで来ているんだ。君の意見を聞かせてほしい」


 いきなり言われて、今度は意見、俺はどうしたらいいんだ。


「俺は……まだハッキリ、言えない、できたら妻に相談したい」

「やめた方がいい」

「どうして?」

「君の奥さんは、所謂寝取った側だ。かなえのことを知ったら、感情的に動く可能性が高い。智里の子どもというだけで、どういう行動を起こすか分からないし、何より僕の娘を危険に晒したくない」

「知りもしないのに、妻を悪く言うのは」

「智里を不幸に陥れた奴は等しく最低な人間だ」


 言い返せない……でも、妻は、悪くない。

 全部、全部俺が悪いんだ。

 語気を強めて遮った言葉のあと、常務は口を覆い、落ち着いた表情を浮かべた。


「申し訳ない、少し逸れてしまったね。君の意見を聞かせてほしい、今の考えを」

「あぁ……えぇとだな、俺は、透夜とかなえさんに全て話して謝りたい。今後のことは2人に考えさせた方がいいんじゃないかって思う。多分、俺以上にショックを受けるだろうし、大変だと思うけどさ」

「なるほど」

「アンタの、意見は? 待っても絶対別れないぞ」


 常務は小さく、深く息を吐く。

 もうすぐ10分……濃すぎる。


「僕は、知ってほしくない。誰になんて言われようがかなえは僕の娘だ。それに将来、2人に子どもが生まれた時、不幸になる可能性も高い。今が良くても、未来の子どもたちが障害を抱え続けたら? ずっとずっとその遺伝を継いでいく。智里が繋げてくれた命を、不幸にさせたくない」


 ずいぶん身勝手なような、でも正しいようなことを言う。

 今の俺では、ハッキリとした答えは出せないし、時間が欲しい。


「すみません、そろそろ時間ですね」


 正直どんな顔で、戸鞠さんの手料理を食べればいいんだか……――。

 

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