遭遇
隣町の、少しお高いスーパーにやってきた。
こんなところ、普段はまず行かない。
シンプルな服装ながら、上品さのある方々が出入りしている。
外観もなんだかキラキラしているような気がしてきた……。
戸鞠さんはお構いなしに俺を誘う。
入り口近くの果物、野菜と惣菜コーナー。
値札は……どこの市場価値なんだろう……買ったら妻にしばらく口をきいてもらえないくらい、のお値段。
店員もどこか余裕のある丁寧な動作に見えてきた。
戸鞠さんは気にせず、カートにじゃがいもやら、ニンジンやら入れている。
「肉じゃが?」
予想してみると、戸鞠さんは一瞬目を逸らす。
「えーと、トルティージャです」
「とるて、何?」
「スパニッシュオムレツです」
「あー、スパ……オムレツね」
「肉じゃがの方にしましょうか」
静かに微笑む、智里がいる。
いやいや、彼女は戸鞠かなえさんだっての、勝手に脳が錯覚させてくる……。
目を擦り、数秒ほど瞼を閉ざしたあと、改めて戸鞠さんを視界に、
「こんにちは、五十嵐さん」
映した……あぁ、あーいきなり目の前に、渋い声で腹立つほど男前なうえ背が高い、戸鞠常務取締役が……いた。
「お、おぁこ、こんにちは……」
戸鞠さんは、戸惑いながら視線を忙しなく動かす。
違うんですよ……と言い訳と事実を混ぜて繋ぎ合わせようとしたが、常務は静かに笑っている。
「お気になさらず、今取引先との会議を終えたところです。かなえの姿が見えたので、もしかして五十嵐さんも一緒かと」
そんなもしかして、ある? 苦笑い一択の表情を浮かべるしかなかった。
「遊園地は楽しかったですか? 娘が色々と迷惑をかけてないといいのですが」
戸鞠さんのふんわりとした黒髪を撫でる、余裕の笑み。
微かに目を丸くさせた戸鞠さん。
「……スマホにGPSでもつけてるんですか?」
「娘の安全の為です。かなえ、今日は何かご馳走でも?」
「えと、その、肉じゃがを……お世話になっているので、ご馳走しようかなって」
「なるほど、是非、私もご一緒しても?」
非常にイヤ。
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