いざ遊園地へ
「見てください! 遊園地ですよ透夜君!」
ウキウキが全身から伝わってくる。曇りない瞳を輝かせる戸鞠さんは、遊園地の入り口ではしゃいでいる。
休日だというのに混雑するほどの人はいない地元の遊園地だが、ジェットコースターの知名度は高い、らしい。
「うん……」
透夜はぎこちない笑顔を浮かべ、時折後ろにいる俺と妻を気にしている。
妻というと、
「なんでこうなったの」
呆れ半分の呟きを俺に向けてくる。
仕方ない、戸鞠さんが、「皆でどうしても行きたい!」と透夜にねだった結果叶ったことだ。
「まぁいいじゃん、家族で出かけるなんて久しぶりだろ」
「そうだけどさぁ」
「2人のデートを見守るだけだよ。それに透夜がどんな感じなのか興味ある」
「趣味わる」
相変わらずハッキリ言ってくれる。
好きに言えばいい、透夜の様子を見られるし、戸鞠さんとも直接会うこともできたのだから、十分だ。
戸鞠さんはあのペンダントを身に着けている。
デートで張り切った格好なのかと思ったら少しゆるめのパーカーとスキニーパンツ、イタリア製のスニーカー。
勝手な思い込みで、ワンピース系を着てくるのかと……まぁ遊園地だし、歩き回るから動きやすい服装の方がいいか。
「これが噂の、フリーパス」
名刺サイズほどのチケットを華奢な指先でしっかり持ち、憧れを含んだ声で呟く。
「そう今日1日遊び放題だ。落としたらダメだから気を付けて」
「はい!」
素直が良く似合う笑顔で頷いてくれる。
その表情もよく似ている……。
「早く行こう」
割り込む透夜の手。
たった数秒、俺を鋭く睨んだ。
今の何がいけなかったのか、全く分からない。
「何しても嫉妬狂いになるよ、今日の透夜は」
つまり距離感に注意しろ、と、無茶が過ぎる。
「あっ! あれがジェットコースター!」
ゲートをくぐると、戸鞠さんは真っ先にジェットコースターめがけて走ろうとした。
行動を予測していたのか、透夜は手綱のように握る。
「で、でも、乗り遅れちゃいますよ」
「何度でも乗れるから大丈夫」
「どこかに行っちゃうかも」
「ジェットコースターはどこにも行かない」
ずっと落ち着かないな。
「いつもあんな感じなのか?」
「そうみたい。どこに行ってもああいう感じなんだって」
箱入り娘が過ぎる。
常務取締役様はたくさん報酬を貰っているんだろうに……。
「グッズもありますよ! ぬいぐるみがたくさん並んでます!」
「大丈夫、あとで買える」
「あとでコンプしましょう、みなさんの分も買います!」
「ありがとう、1個でいい、かな」
財力でぶんなぐってくる。
「ありがと、私達はレストランで食事ができたら十分。二人がメインで楽しんでよ」
「ありがとうございます。ですが、今回はみんなで一緒に楽しみたいです! 一度こうして家族みたいに、過ごしてみたくて、ダメ、でしょうか?」
曇りない瞳で訴えられると、ダメとは言えない。
家族みたいに、か……ほんと、どうやって今まで生活してきたんだろう。
「そういうなら、ジェットコースターまで走るか」
袖を捲ってストレッチを始める妻。
「「え」」
珍しく、俺と透夜の声が揃った。
お互い目が合う、不服そうに睨んでくるので、優しい感じに笑ってみせるも、プイっと体ごと逸らされた……。
「ゴー!!」
そうこうしているうちに妻と戸鞠さんがスタートダッシュを決める。
「もー……なんだよ」
だるそうに透夜は呟く。
「今日ぐらい親子水入らずで楽しもう。戸鞠さんがせっかく機会をつくってくれたんだし、さっ!」
俺も駆け出す。
「はぁ?!」
背後から聞こえる半ギレの声。
さすがに全力疾走はしないで走ったため、数秒後に追いつかれ、息子の背中が視界に入り込んだ。
大きな背中だ。
まだ、小さかった透夜と重なる、あの時はまだ乗れなかったジェットコースターを目指して走っていた。
乗れないことに泣いてしまい、帰りたくないと駄々をこねて、たくさん困らされたが、数少ない息子との思い出。
後悔と、懐かしさが横切る――。
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