誘い

『この前のメッセージカードはどうだったの?』

『やってみました! ですが、何も反応がありません……失敗でしょうか?』

『意外と照れてるかもよ、父親はどうしていいのか分からないから、会える時は声かけてほしい、かな』

『なるほど、私もつい躊躇してしまいますが、勇気を出して声をかけてみます! でも、少し不安です』

『お父さんはどんな人なの?』

『父は、尊敬すべき方だと思っています。文だと少し難しいです。また今度、直接お話させてください』


 直接。

 智里のことで、こんなに気が弱るとは思わなかった。

 ずっと身体が空洞で、虚しく、不意に思い出す彼女の微笑みと一緒に暮らした時間。

 情けないことに自分からメッセージを送ってしまった。


「ねぇ」


 まずいよな。でも、会って色々話をしたい。

 彼女に、会いたい。


「ねぇ!」

「うぉッ!? ごめん……ぼぉーっとしてた」


 妻の大きな声で全身が跳ねる。

 ソファに座り直し、スマホをいったんポケットにしまう。


「最近、スマホばっか見てない?」

「あーちょっと、戸鞠さんとこのお父さんと会ったんだ。懇親会で、その、連絡先を交換することになってさ」


 一部だけウソを吐く。


「ふーん、どんな人だった?」

「どうって、男前で、渋い声で、ぐいぐい来るわりには冷たい奴。正直、苦手」


 妻は訝しげな顔で、数秒睨んだあとキッチンに戻っていく。


「かなえさんかと思った」

「っ……んなわけ、したら透夜に絶交されるし、それに、犯罪だろ」

「そうだね」


 相談に乗っているだけなのに、なんで隠し事をしないといけないのか、時々分からなくなる。


『あんまり会うと、透夜と嫁に何言われるか分からないから、ごめん』

『そうなのですか? でしたら、みなさんと一緒に遊園地に出かけるのはいかがでしょうか?』


 んん、分かってないうえ破茶滅茶な提案だな。

 やっぱり変わってるなぁ、この子。

 君は智里と関係ある? それとも他人の空似? 君は一体、何者なんだ。


『みんなで一緒に?』

『はい! 一度でいいですから、行ってみたいです』


 遊園地に行ったことないのか……常務取締役という御方なら家族サービスは豪勢なのかと思った。

 まぁでも興味はある、戸鞠さんといる時の透夜はどんな感じなんだろう――。

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