付き合い方

 助手席の扉が開いた。

 早足で玄関まで寄ってきたと思えば、戸鞠さんの細い手首を掴む。


「あ、透夜君、少し早めに着いたので、透夜君のおと、え、あっ」


 何も言わず、乱暴に引っ張る。


「え、えっ……あの、すみません、ありがとうございましたっ」


 引っ張られながらも丁寧にお辞儀して、戸鞠さんは透夜と一緒にどこかへ。

 遅れて妻が、膨れ上がったエコバッグを片手に帰ってきた。


「ふーん」

「えーと、おかえり」


 ジッと頭から足元まで睨まれてしまう。


「ただいま。何か相談に乗ってたわけ?」


 遠回りした言い方だな。

 靴を脱いでスリッパに履き替える動きは素早く、答える前にリビングに行ってしまう。

 遅れてリビングに戻る。


「透夜と普段どんな話をしてるのかって聞かれただけ。思い返すとさ、透夜とあんまり喋ってないな」

「私も全然、見たことない」

「これってもう、手遅れ?」

「年齢を重ねていけば、って言いたいけど、アンタの場合干渉しなさすぎ」


 しばらくの食材を冷蔵庫やら棚に移していく妻の痛くハッキリとした指摘。


「んなこと言われても……どうすればよかった?」

「話聞いて、応える、それだけ」


 単純に聞こえる。

 でもそれは、妻だからできることだろう。

 ハッキリとした自分の意志と思考を持った彼女だからこそ、相談されてもすぐに助言できる。

 俺はどっちかというと、水受けだ。

 意志を持って流れてきたのを受け入れるように、言われた通り従って動く。

 だから、迷い迷う青少年の気持ちを汲み取ることは難しい。ハッキリとしたアクションを起こしてくれなきゃ、流してしまう。


「難しいなぁ」


 冷蔵庫が閉まる音のあと、妻は俺の前にやってきた。

 腰に手を当て、複雑な表情を浮かべている。


「今は特に多感な時期だし、黙って見守る。アンタは胸張って、仕事する。だから、変な気を起こさないでよ」


 どれだけ忠告されるんだ。


「俺ってやっぱり信用、ない?」

「してる。ただ不安なだけ、いろいろ思い出すでしょ。記憶って綺麗だから」

「ちゃんと話し合ったろ。俺は、君と透夜と一緒に暮らすって約束したんだ」


 妻は体感5秒、俺をジッと見たあと、頷いた。

 両手を広げた妻に応じて、抱きしめる。

 温かい……。

 頭を撫でてみる、あの頃より痛んだ髪の毛を掬う。

 香水の良い匂いがするけど、すぐに、彼女の黒髪が影になって映り込んでしまう。


「……」


 彼女は、今どこで、何をして、どうしてるんだろうか――。

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