雑草くじ

@tukeogoma

第1話

月曜の朝、四辻の中央にくじが生えていた。

紐が百本ほど束ねてあって、そのうちの一本を引くと景品が付いてくるタイプだ。

裏返したモップのように、それは生えていた。

不気味で、アスファルトの下にどんな景品があるか分からない。しかし好奇心が勝ち、引いてみることにした。

親切にチョークで一人一回のみ五百円と書かれていた。

コインを入れる穴も紐の近くにあった。

なんの変哲もない五百円玉を穴に落とす。底につく音は聞こえない。

恐る恐る薄い橙色の麻糸を摘んで引くと、スポンと抜けた。

糸の先には生きたモグラがついていて、ジタバタと暴れた。

モグラか、ありふれ過ぎてガッカリだ。

そう思って、モグラは近くの空き地に離してやった。

そのうち近所の小学生が三人やって来て、なけなしのお小遣いをジャラジャラと注ぎ込んだ。

最初はお金を入れず引こうとしたようだが、3人がかりで引っ張ってもダメだったようだ。

一人が紐を引くと、スポンと抜けて翡翠の勾玉が出てきた。

3人は大喜びで、そして取り合いながら帰っていった。

夕方になって、激しく泣いている女性が来た。

どうやら失恋したようだ。

女性は綺麗な五百円玉を地中に入れ、糸を引いた。

するとパチンコの大あたりのように、古い小判がザラザラ湧き始めた。

聞けば、女性は男性に騙され全財産を失い、これから死のうかとも考えていたらしい。

夜になって、酔っ払いの中年男がやって来た。

男は夢でも見ていると笑いながら、薄汚れた百円玉を五枚入れ、糸を引いた。

真っ白などくろがスポンと出て来た。

男は真っ青になって、そのどくろをまじまじと見つめた。

ユカコ。男はポツリと呟いた。

男は慌ててどくろを腹の中に隠し、逃げていった。

翌日の早朝、老夫婦がやってきた。

主人が叱るのもどこ吹く風、夫人が面白がってお金を入れて糸を引いた。

すると近くの空き地が揺れ始め、ぽっかりと大きい穴が空いた。

老夫婦が覗き込むと、遺跡らしい巨大な石の街並みが現れた。

くじの束はまだまだあったが、緑色のスーツを着た二人組の男たちがやって来て、くじを燃やしてしまった。

私は何も知らないふりをして、遺跡となった空き地でもぐらがまたジタバタとしているのを見ていた。

くじが燃え尽きた後、その痕を覗き込んだ。

赤い赤い溶岩が、すぐそこまで迫っていた。




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