第10話 サーシアと疑念2
ユースティスの言葉に、グレイグは思わず声を荒げる。
「はあ?!おかしいだろ?第一、魔王だったとして、何で教師なんかやってるんだって!」
「仮説を立てるなら、魔王の力…つまり、強大な呪詛を各地の魔素溜まりに見せかけて、分割して封印。そうやって大幅に弱体化させた魔王を、"庭園"で管理している…とかじゃないかな。教師な理由は、ちょっと読めないけど」
「…先生が…そんな事、信じられない…」
グレイグとサーシアは、いまだ困惑の方が強いようで言葉が続かない。
「先生の異常に高度な魔法操作、ほぼ確実に不老である事、よく口にする"制約"とか…色んなことに説明がつく」
「確かに、先生は普通の人間ではないと思うけど…!じゃあ、何で"魔王"だってバレるような話を授業でしたんだ?おかしくないか?」
「うーん、これも推測にはなるけど。…バレても良い状況になったから、とか。昨日話してたのも、何か企みがありそうだったし…だから撤退を勧めたんだよ」
「な、そ、そんな訳…、…」
何かを言おうにも反論の言葉が出ず、口ごもるグレイグ。
ユースティスは気にせず話を続ける。
「あと、本題だった"黒い影"だけど…あれは呪術に関連したものだと思う」
「呪術…!だから、魔素が見えなかったんだ…」
サーシアは、納得したように呟く。
「ハイネも恐らく、呪術に何らかの関係があるんだろう。あの影は、それ自体が何かの術じゃなくて、呪詛の残滓なんじゃないかな」
「ざんし…?」
「呪術っていうのは、術者の強い念が根底にあって、その
「そ、それって…大丈夫なんですか?」
「ハイネ自身が呪術者か、そうじゃないかによるかな」
「そっ、その可能性も…考えなければならないんですね…」
サーシアは悲しそうに呟く。
疑いたくないものの、昨夜見てしまったハイネの不審な行動と姿に、まだ気持ちの整理がついていない。
「昨日の会話から考えると、ハイネは先生が呪術に詳しい事を知り、何かを調べに部屋に行った。でも先生はそれに気付いてて、逆に協力を持ち掛けた…」
「協力するって、先生とハイネが、何かしでかすって言うのかよ…!」
「そこまでは分からないけど…もし、先生が本当に魔王か、それに関連する存在なら、楽しい話じゃないかもしれないね。どちらにしろ、僕はこの説をもう少し精査する為に、一度魔素溜まりを見に行こうと思ってる」
その言葉に、間髪入れずにグレイグが反応する。
「…僕も行かせてくれ。こんな話、はいそうですかで流せるか。徹底的に調べて…僕は、先生を信じたい」
"庭園"では既に三年の月日を過ごしたグレイグは、この場所やニルに対する思い入れも強いのだろう。
強く握った拳には、その葛藤が現れているようだった。
「わ、私もお手伝い出来る事があれば!乗りかかった船、です!」
対してサーシアは、まだ理解が追いついていないものの、只事では無いことは分かっている様子だ。
ぱっと挙手をしてそう告げる。
「さあ、まずは魔素溜まりを調べに行くぞって、どうしたもん…あ」
何かに気付いた様子のグレイグに、ユースティスはこくりと頷き、「よろしくね」と言うのだった。
####
「…休暇?勿論、実家に戻るわよ。毎年そうでしょ」
「そうだよなあ〜、あのさ、エルマ。頼みがあるんだけど」
「なに…?」
揉み手をしながらニコニコとやって来たグレイグを不審そうに見るエルマ。
「僕、君の故郷に遊びに行きたいんだよね」
「なっ?!なに?!うちに?何でよ!」
思いもよらない頼みだったのか、エルマは顔を赤くして慌てて叫ぶ。
この反応は…と何かを感じたサーシアだったが、話が拗れる前に助け舟を出す事を優先し、横から口を挟む。
「私達、休暇中の自由研究みたいな感じで、魔物の発生とか戦いの歴史について調べることにしたんです」
「そうそう、ユースティスの研究で面白い考察をしてて、色々調べたいらしいんだけど…僕としてはそこに禁書の匂いを感じ取ったんだよなあ!だから、君の帰省に合わせて、魔素溜まりに近い地域の資料を集めたいんだ。サーシアも初めての休暇だ。旅行も兼ねて良いかなと」
エルマは動揺から戻れずにいるようだったが、平静を装うように髪の毛をくるくるといじりながら返事をする。
「そ、そう…そういう事を初めに言いなさいよ…そうね。他の街に比べたら、そういう資料は多いかもしれないわ。あまり観光地は無いけど、食べ物は美味しいわよ。ってことは、ユースティスも来るの?…うちに泊めていいか、母さんに聞いておく」
「ありがとう、エルマ!助かるよ!」
「ありがとうございます!」
連絡を取っておくわ、と去っていくエルマを見送ってから、二人でよし、と呟く。
「第一関門突破かな」
「嘘をつくのは、心苦しいですが…」
魔王の話や魔素溜まりの調査については、エルマには話さない事に決めた。
彼女は人より魔素溜まりの災害を目にして来ている。
その元凶がニルなのかもしれない…その疑念だけでも、冷静ではいられないだろう。
「タオが来てくれたら心強いが…やめておこう。あいつも、故郷で魔物に襲われたのがここに来るきっかけだって言ってたからな」
「…もし、先生が本当に悪い人で、みんな苦しんできた元凶だとして…私達は、どうすれば良いんですか?」
「…んー…そうは思いたくないけど…本当にそうだとして、まず僕らが先生に敵う筈ないからな。正直、出来ることは何もない。…でも、理由を聞くくらいはしてもいいだろ」
「…そう、ですね。まずは調査です!そこから考えましょう!」
「うん、そうだな。なんか元気出たわ。ありがと、サーシア」
迷いを振り切るように拳を突き上げるサーシアを見て、グレイグはへらりと笑うのだった。
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