記録:十六頁目
記録:十六頁目
『落ち着きましたか?』
一人丸まって現実逃避をしていると、シェリーが話しかけてきた。
どうしたら良いかわからないよ、この年齢と身長、体型でどうやって生き抜けと……。
こんなの街中だって厳しいでしょ、成人年齢になっても、老人と呼ばれる年齢になってもこのままなんだよ? 罰ゲームもいいところだし、何より……。
親しい人たちは皆、ボクを置いて死んでいってしまう……ママ、パパ、お姉ちゃんたち、お兄ちゃんたち、皆居なくなっちゃうんだ……。
そんなの耐えられっこないよ……。
『私は精霊です』
「…………」
『精霊に寿命はありません。 スキルとして所持してませんが、種族的に不老不死の存在なんですよ。 そうでなかったとしても、地球に居た頃の私はシステムを破壊、破棄しない限り不死であることは変わりありません。 なので私はシエルの死を見送ることしかできない存在でした。 シエルには申し訳ないですが、この先ずっと共に生き続けられることに喜びを感じてます』
「…………」
『親しい間柄の人々はシエルを残して亡くなっていくでしょう。 ですが……私では不足ですか? 私ではシエルの寂しさを埋められませんか?』
「妖精族も似たようなものです。 妖精族は不死ではありませんが不老の存在です。 命を絶たれれば別ですが、自然が存在し続ける限り自然死することはありません。 トリアも永遠を共に生きられるのです、トリアが加わっても不足でしょうか?」
「…………」
「それからもう一つ、シェリアリアは職業神から【運命の舵輪】を授かったことにより、【運命の方舟】という称号を獲得しています。 その効果は……」
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名前:運命の方舟
説明:運命の糸で繋がれたモノは、妨げるモノ無く必ず出会う運命。
良い運命も、悪い運命も、等しく【運命】であることに変わりはない。
運命の糸は何色か、それを知ることは叶わない。
効果:運命の導き
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「称号の効果により、シェリアリアの運命に導かれて人々が集います。 その人々の中に、不老不死を無効化するのか、集う人々を不老の存在にするのか、その手段は流石に分かりませんが解決へと導く者が含まれている可能性は非常に高いです。 根拠はありませんが、そう思わせる事柄に心当たりがあります」
「…………」
「シェリアリアへの愛が深すぎる創造神アルザリアスが、シェリアリアを悲しませるような運命を授けるとは思えません。 絶対とは言いません、ですが諦めたり絶望したりするのも違うと思います」
『その通りです、少なくとも今考えることではないですね。 解決に繋がる何かが目の前に現れた時、どうするか考えれば良いと思います。 ……そうして丸まってることでどうにかなるのでしたら、私達はもう何も言いません、ご自由になさってください。 ご家族にもありのままの姿をお伝えしますので』
シェリーの言葉には怒気が込められていた。
情けない姿を見せて、ずっと側に居るという言葉に答えることもできず、ただただ丸まって固まるボク。
シェリーもトリアも、以降言葉を発することはなかった。
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「なーんか大変なことになってるわね」
「不老不死に不滅って……さすがにやりすぎだと思いますよ?」
「私が付与したスキルじゃないです、完全に想定外の事象なんです」
あまりの出来事に、珍しいことに表情が苦しそうに変わる創造神。
何故か干渉できないスキルを獲得していることには気が付いていたが、内容はおろか名前を見ることも叶わなかった。
それ故に何も対処ができず、こうして想像すらしていなかった事態になってしまったのだ。
必死に説明をすると、今度はため息が四方から漏れ出てくる。
「アルザリアスさん、確かに付与はしなかったかもしれないけれど、原因はあなたにあるのですよ?」
「どういうことでしょうか……」
眉毛が下がってしまい、本当に悲しそうな顔になっている。
その珍しい姿に女神たちも驚いたが、話しを脱線させるわけにはいかず口を挟むのを堪えていた。
「転生前のスキル選定の際に【魔力強化】を【魔力強化:八重】に変更したのが最大の原因です」
通常の魔力強化であれば魔力量が十倍になるが、八重になったことで八〇倍になっている。
更に【称号:精霊契約者】で一〇倍に、【称号:創造神の愛し子:
それだけに留まらず、【スキル:☆
人族の魔法職以外の一般人で平均一〇〇程度、一般的な魔法職でも一〇〇〇から一〇〇〇〇、宮廷魔術師になるような傑物なら一〇万に達する場合がある。
つまり、一般人の魔力量が約三二〇万になるほどの効果、宮廷魔術師が二〇から三〇人集まったのと同じくらいだ。
ということを滾々と説明していった。
「私達女神にも魔力はありますし、もちろん無限ではありません。 下級神であっても最低一〇〇〇万……シェリアリアはその数値を軽く超えてしまっているのです。 上級神にも届きうる魔力量を得てしまったが故に、人族を超えた者【
「称号:精霊契約者はシェリーといったかしら、あの子の執念が成したことだから良いとして、魔力強化を八重にしたのも、魔法適性で良かったのを幻想級魔導師にしたのも、シェリアリアを重苦しいほど愛して称号にまでなったのも、全部アルザリアスですわ」
「アルザリアスちゃんに悪気が全く無かったとしても、ちょーっとやり過ぎちゃったかもしれないね?」
「つまり
「そ、そんな……うぅ……」
ようやく自身のしたことを理解したアルザリアス。
責める口調ではないにしても、全員からの言葉に否応なく分からされてしまった。
ついには涙が頬を伝い、更に皆を驚かせることとなる。
「少し責めるような言い方になってしまいましたが、スキルを剥奪することもできませんし、称号を消すこともできません。 アルザリアスさんがあの子を愛することは何も悪いことではありませんし、それを責める女神は居ません。 ただ、今回の状況を作り出したのは御自身が原因であった、とだけ覚えておいてほしいだけです」
「わたくし達は見守る以外できませんものね、心苦しいですが。 何かしてあげられたとしても、神ですら干渉できないスキルである以上……結果は同じですわね」
「落ち込んでも泣いても何も変わらないんだし、前向きに考えなさいな。 鑑定にアルザリアスの一言載せられるんでしょ? なら可能な限りそこでアドバイスするなりして助けていくしかないんじゃないかい?」
「みんなフォローしようとしてるけど完全に逆のことしてるわね。 アルザリアスちゃん、泣きたいなら目一杯泣きなさいねー? たくさん泣いて、それから一緒にどうすればいいか考えましょう? ね、ほーらよしよしよしー」
ラクシュミーがアルザリアスの頭を撫で始めると、アルティオだけは納得いかない顔をしていた。
「アタイは結構まともなアドバイスしたはずなんだけどな……」
本当は聞こえてるのにサラッと流したラクシュミー。
事実アルティオの案以外なにもできないのだが、その結論に至るのも時間の問題。
そして、何故かラクシュミーの手柄として全部掻っ攫われるのも時間の問題。
今はそっと泣き止むのを待つしかない面々であった。
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