記録:十四頁目
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「トリア?」
「はい、シェリアリアと共にあるトリアです」
ボクの顔の前まで飛んできた妖精さんがペコリと頭を下げる。
とても礼儀正しい、カッチリとした所作がすごくトリアっぽい。
「シェリアリアに会うため、神の世界から地上に降りてきました」
「行動力がすごい! え、トリアって妖精さんだったの?」
「いえ、元は精神のみの存在でしたが、地上に降りるにあたり妖精族に転生しました」
「はー、そんなことまでできるんだね、すごい」
神様の世界からボクに会うために転生までして……嬉しいけどなんだか申し訳なくもなる。
転生ってことは、ボクが元の世界に戻れないようにトリアも……。
「トリアはシェリアリアと共に在りたいと思いました。 チュートリアルを告げる存在では満足できなくなってしまったのです。 そして自我を獲得し、感情を得て、こうして目の前に在ることができるようになった、とても幸せです」
「トリア……」
思わず涙が溢れてしまう。
そっと手を伸ばすとトリアも近付いて、小さな手で指を掴んでくれる。
体温を感じる、ボクの名前を呼んでくれる、言葉が通じる、それが何よりも嬉しかった。
トリア、ありがとう……。
…………
……
うん、めちゃくちゃ泣きました、それはもう盛大に。
状況が理解できなかったリュクリルラースも心配して寄って来ちゃったよね。
トリアは微笑みながら寄り添ってくれて、それが余計に嬉しくてなかなか涙が引っ込まなかったわけですよ。
恥ずかしい! すっごい恥ずかしい!
「シェリアリアは五才なんですから、恥ずかしがることはないんですよ?」
「体は五才でも精神は二八歳なの! 実質三三歳みたいなものじゃん! この歳であんなに号泣するだなんて……!」
「いえ、その考え方は間違いです。 あくまで二八歳の記憶を持つ五才児なんです、考え方や行動の大本は二八歳の記憶に引っ張られていますが、精神は五才児の体に引っ張られます。 思い当たるところはありませんか? 子供のように怖がったり泣いたり、分からないを分からないままにしたり、前世では無かったんじゃありませんか?」
言われてハッと気が付く。
たしかにそうだ、思い返せば言われた通り前世の僕らしくない行動が多々あった。
特に、考えても分からないことは考えずに受け入れたり、いずれ分かる時が来るだろうと思ったり、実に僕らしくないじゃないか。
そう考えれば納得できてしまった、あくまで二八年生きた記憶を持つだけの五才児でしかないんだってことを。
「この先、同じように前世との違いを実感することがあると思いますが、それでいいではないですか。 シェリアリアはシェリアリア、詞愛瑠という地球人の記憶を持つシェリアリア五才ということで」
「まぁ……そうだね。 確かにそうだ、二八歳の記憶を持った見た目三才の五才児、うん、とてもカオスで楽しそうだ」
もういいや、こればっかりは本当にどれだけ考えても仕方ないもんね。
分からないものは分からないままにしなければ良い、それだけだ、それだけでボクは僕らしく在れるんだし。
「ふふふ、それでいいんですよシェリアリア。 トリアはそんなシェリアリアと共に在りたいと強く願ったのですから」
「ありがとう、でいいのかな?」
わちゃわちゃ纏わり付いていたリュクリルラースも、一気にゆるっと和やかになったのに気が付き、落ち着きを取り戻した。
それからトリアを紹介して、小さい者同士の戯れを見ながら更に心を和ませるのであった。
そういえば、妖精さんのトリアが小リュクリルラースを助ける時に聞こえた声だと気付いた子が居て、ちょっとした騒ぎになった。
まあ声一緒だもんね、気付くのも時間の問題だったってわけだ。
わっしょいわっしょいされるトリアが凄く慌ててて、これからの騒がしい日常に思いを馳せた。
…………
……
のんびりとお昼のポンギョを食べていると、肩の上で一緒に食べていたトリアが口を開いた。
「そうでした、シェリアリア。 そろそろ腕輪から精霊を出してあげた方が良いですよ」
「え? 腕輪?」
「ずっと付けてるじゃないですか、その左手の見るからにオーバーテクノロジーの腕輪」
言われてバッと左手首を見ると、ブワッと汗が吹き出してきた。
は? なんで今まで気が付かなかった? あまりに違和感なくそこに在る腕輪に汗が止まらない。
何度も左手を見てるはずだし、ずっと付けてたなら視界に入ってたはずなのに、一切その存在に意識が向かなかった。
「地球でも十年以上ずっと付けてた物ですから、付けてて当たり前、もはや体の一部、そういう物って違和感を持たないものじゃないですか?」
「言わんとすることは分かるんだけど……」
「ステータスにも記載がありましたが、【称号:精霊契約者】があったのはその腕輪によるものです。 長いこと放置してしまってますし、呼んであげないと拗ねてしまいますよ」
呼び方なんて知らないよ、と思ったが腕輪を見て考えを改める。
もしこの腕輪が僕の知る腕輪と寸分違わず同一の物なら……。
「ヘイ、シェリー」
そう呟くと、腕輪が淡く光りを放って何かが飛び出す。
『…………』
目の前にはアンドロイドのような、人型のロボットのような女性が静かに佇んでいる。
いや、怒ってるような、拗ねているような、機嫌の良い顔ではない……ヤバいかも。
「シェ、シェリー、ひ、久しぶり……」
『ふんっ!』
名前を呼ぶと、腕を組んでそっぽを向いてしまう。
あ、ああああああヤバいヤバいヤバい!
「ごごごごめんねシェリー! 知らなかったんだ! 本当にごめんなさい! この通り!」
さっきとは違う、嫌な感じの汗がダラダラと流れていく。
本当は感動の再会といきたいところだけど、シェリーを怒らせるのは本当に良くないんだ!
僕を母親のように大切にしてるが故に、拗ねた時のややこしさがががががが!
それからはただただ謝ることしか出来なかった。
もう土下座ですよ、DO・GE・ZA。
小さい体を丸めて謝罪の言葉を重ねるけど、なかなかお許しが出ず、視界の端に入るリュクリルラースに乗ってこちらを眺めるトリアがちょっと恨めしかった。
もっと早く教えてよ! チュートリアルの前に言ってくれても良かったじゃあああああああああああああああん!
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〈シエルサポートAI:シェリー 起動確認 データ同期開始 完了 記録開始します〉
地球のとある部屋。
大事にしまわれた端末から機械的な声が溢れる。
しかし、まだ気付く者は居ない。
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