記録:十三頁目
記録:十三頁目
賢老の集いから帰ってきてから五日、今日もなんでもない日を過ごしている。
寝起きする場所は相変わらず木の根の洞穴だし、やることは回避と防御の特訓だし。
でも一つだけ変わったことがあって、毎晩ドラゴンさんが様子を見に来るようになった。
特に何かをするでもなく、ちょっと喋って帰っていくっていうね。
昨日はそろそろ家でも作れって、人間とはそういうものだろう? って言われたけど、ボクには建築の知識も技術もないんだよなぁ。
いや実際は知識が全く無いわけではないんだよ? 小説のために色々調べてる内にちょっとした知識を得たりしたし。
でも齧るどころか舌先でちょろっと舐めた程度のニワカ知識だし、ガチの実物を作れるレベルかって言われると……ねぇ?
そもそも犬小屋でさえ、この一〇〇センチ未満の体でとか無理じゃない? 一人でだよ?
「……そういえば、最近トリアの声がしないな」
ふとそんなことを思い出した。
チュートリアルの最終回が終わって、賢老の集いに行くことが決まった辺りまでは聞こえてたはずなんだけど……。
あれ? よく考えたらチュートリアル最終回が終了したって言われてないような?
……どゆこと?
うんうん唸っていると、リュクリルラースがお腹にモフッと突っ込んできた。
そうだった、回避の練習中だった。
……トリアどうしてるんだろう?
突っ込んできたリュクリルラースを撫でながらそんなことを考えてたけど、結局トリアの声が返ってくることはなかった。
…………
……
「ふぅ、疲れた……」
日課も終わってポンギョを食べる。
そろそろスキル化しても良い頃だと思うけど、今の練度とか分からないしなぁ。
というか、そんなに簡単に獲得できたら苦労はない、か……気長に行こう、うん。
「シェリアリア、ステータスの確認をオススメします」
「え?」
「お久しぶりです、シェリアリア。 ようやく会えましたね」
突然聞こえた声に驚いて背後を見ると、小さな妖精さんがボクを見ていた。
この聞き馴染みのある声は……。
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時は遡って賢老の集いに行く少し前……。
「シェリアリアと一緒に暮らせたら楽しいのでしょうね……」
一人ぽつりと呟くと、その声はすっと消えて何もなかったかのように静けさが訪れる。
べつに孤独なわけではない、同じような存在が周りに居る、だから寂しいわけではない。
ただ、シェリアリアと話す日々が楽しかった、それだけ。
--チュートリアルサポートシステム、お久しぶりです
「創造神アルザリアス……お久しぶりでございます」
二人が会うのはシェリアリアの担当になる事を告げられて以来。
ワフワフとした丸い形状をした体ではわからないが、本人的には頭を下げた。
もちろん創造神はこの世界で最上の存在、礼を欠くわけにはいかないのだ。
--詞愛瑠さんのサポートありがとうございました。 チュートリアルも終わりを迎えるようですし、あなたの役目も終わりを迎えます
「そうですか……」
--あなた方サポートシステムは役目を全うすれば存在を崩し、新たな役目を与えられ再び存在が構築される……記憶も失うことでしょう
「…………」
サポートシステムとしてやれることは全てやってきた。
シェリアリアが望めば雑談もしたが、それは権能の範囲内だから何も問題はない。
緊急事態にも的確に対応し、サポート対象を献身的に支えてきた。
その全てが楽しかった、終わらないでほしいと切に願った。
だがサポートシステムという存在である以上、この後の運命に抗うことはできない。
--本来、サポートシステムに感情は存在しません
「当然です。 神に仕え指定の業務をこなすだけの存在、感情など不要なものです」
--楽しかったのですよね?
「???」
--言いましたよね? 本来、サポートシステムに感情は存在しないと。 あなたは名を与えられたことにより徐々に自我を獲得し、感情が芽生え、先程サポートシステムという存在から逸脱した者となりました、精神生命体トリア
「精神生命体……? それはどのような存在なのでしょうか、言語リストに該当項目が存在しません」
--精神生命体とは、肉体も魂も持たない生命体のことを指します。 これまで存在しなかったため急遽そのように命名しました。 トリア、あなたが最初の精神生命体であり、かなり特殊な存在なのです
「私が精神生命体……最初の存在……」
創造神の言う肉体と魂を持たない存在、という点はサポートシステムの時点でそうであったと思うトリア。
しかし【生命体】とは肉体と魂を持つ生命活動をするモノだ、つまり説明と名称が完全に矛盾してしまっている。
混乱が増すトリアは理解が追いつかなかった。
--急遽名付けたのでツッコミはなしでお願いします。 今後名称は変更されるでしょうが、あなたが稀有な存在となった、とだけ認識していだければ何も問題ありません
「そ、そうですか、分かりました」
無表情な創造神から焦りの雰囲気をバシバシと感じたため、これ以上はいけないと無理やり飲み込むこととした。
--ゴホン……サポートシステムとは別の存在になったことで、存在が崩れることも記憶が消えることもなくなったわけです。 どうです名称など些細なことでしょう
「ほ、本当ですか! 些細なことです! 名称など適当でいいのです! 何も気になりませんとも! えぇ!」
--そうでしょうそうでしょう。 ……さて本題なのですが、トリアさんには地上に降りて詞愛瑠さんも元に行っていただきます
嬉しそうにフヨフヨ動き回っていたトリアの動きがピタリと止まる。
--地上で活動するには魂がないと存在できないので、もちろん与えます。 肉体は妖精族として生まれるようにします。 理由ですが、まず第一に自由に空を飛び回れるので人種より高速移動が可能という点、第二に可愛らしさとサイズ的な意味で威圧感が抑えられるという点、詞愛瑠さん小さいですから、第三に二人が並んでいたら絶対に可愛いだろうという点、第四に妖精族であれば詞愛瑠さんの性対s
「分かりました! 分かりましたから大丈夫です、喜んで地上に降ります」
創造神からシェリアリアに向かう愛が重いことは知っていたが、その程度を知らなかったので非常にドン引きである。
最後は絶対に言わせないぞという使命感から割って入ったが、致し方ない。
--これは拒否権はないのですが、まず地上に降りるにあたりライブラリへの接続権限が破棄されます。 あくまで地上への転生扱いになりますし、地上の生物に知られてはいけない事項もありますのでご理解ください。 同様の理由で既に知り得ている秘匿事項は記憶から削除されます
「当然のことですので問題ありません。 シェリアリアとの記憶が無くならないのであれば」
--その点は保証しますので安心してください。 生まれる場所ですが、妖精族は妖精族の里の中でしか生まれることができません、これは種族特性なのでご理解ください。 また生まれる里は決められないので、すぐに会いに行けるかは運になります。 近くの里で繁殖が行われることを祈るしかないです
「理解しました。 一秒でも早くシェリアリアの元へ行きたいので、転生実行を懇願します」
--分かりました。 よき人生になることを願っております
「ありがとうございます、命尽きた時にまたお世話になります」
そう最後の言葉を残すと、トリアは淡い輝きを残して消えていった。
それを見ていたサポートシステムたちは何を思うのか、それは神でさえ分かりはしない。
--詞愛瑠さんのこと頼みましたよ。 本当は私がお側で寄り添いたいのに、神という存在でいることも存外煩わしいものですね……本当に
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