記録:十一頁目

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「はじめまして、一月ほど前からこの森にお邪魔させていただいているシェリアリアと申します、よろしくお願いします」


 約束の時間が来るまで、リュクリルラースたちにお願いして回避と防御スキルの特訓をさせてもらった。

 実戦形式じゃないと習得は難しいと思って手加減なしでお願いしたんだけど、さすがにポーションがあるからって怪我はさせられないと、きゅきゅっと拒否された。

 それでもかるーく、かるーく突進してもらったりはやってくれたから、充実した時間になったんじゃないかとは思う。

 まぁ習得には至らなかったんだけどね。


 休憩を挟みながらそんなこんなやっていると、気付けば空がオレンジ色に染まっていた。

 約束の時間も近いなと思いつつも、一旦仮眠を取ることにした。

 この森で安全に暮らすには偉い先住民に面通しした方が良い、その面通しで眠さ故に粗相するわけにもいかない。

 ということで、少しでも眠気を飛ばしておこうっていう感じ……ただでさえ五才児の体はまだお昼寝が必要なのだ、そこに精神年齢は関係ないのだ。


 …………


 ……


 ん……顔ペチペチしないで……。


『シェリアリアよ起きたか? 我が迎えに来たぞ』


「んぁ……もうそんな時間……」


『すぐには動けぬだろうと思って少しだけ早く来たのだ』


「ありがとうございます……ふわぁ……」


 ドラゴンさんが気を利かせてくれたらしい、ありがたい。

 体を起こすと、乗っていたらしいリュクリルラースがコロコロと落ちていく。

 顔ペチペチは君らだったか、起こしてくれてありがとうね。

 大きく伸びをして、目を擦って、顔……は水がないから洗えなくて、ボロ服に付いた埃と土を払って準備完了っと。

 ……なんとか綺麗に繕えないかな、大事な一張羅だし。


「空飛んでる! すっごおおおおおおい!!」


『はっはっは! 凄かろう凄かろう!』


 リュクリルラースに手伝ってもらって頑張ってよじよじ背中に乗ると、羽撃きはばたき一つで一気に上昇した。

 ドラゴンは魔法じゃなくて物理で飛んでるのか! かっこいい!

 森もめちゃくちゃ広い! 中心部なんて言ってたけど、全然違うじゃん!


「ドラゴンさん! なんでさっきまで居た場所を中心部って呼んでるんですか!」


『大声を出さんでも聞こえておるぞ。 この森は複数の主が管理しておってな、それぞれが管理している範囲の真ん中を中心部と呼んでおるだけだ。 先ほどまでった試練の森は我が管理しているのだ』


「そうだったんですか! なら他の主の管理する森は別の名前があるってことですか?」


『その通りなのだ。 名は我ら主が決めておっての、我は貪欲さを好む故、厳しい環境で欲しいものを手に入れろ、と【試練】をその名に冠したのだ』


「へぇ、そんな意味があったんですね」


 この森は人間が思ってる以上に広かったのか、すごいな。

 森全体の歴史を知るのも面白そうかも。


『今向かっているのは原初ハジマリの森という。 そこの中心部で賢老の集いが行われるのだ』


原初ハジマリの森……」


 名前からして最初の主が居た森かな? とにかく最も大事な区画なんだと予想する。

 やばい、空飛んでる感動で薄れてたけど急に緊張が……。


『着いたぞ、降りるからしっかり掴まっておるのだぞ』


「わ、わかった……」


 …………


 ……


「シェリアリアか……そなたが試練の森に侵入し、主に許可も得ず居着いておった言い訳を聞かせてもらおうか」


 さすがに真ん中に降りるのは無理とのことで、少し離れたところに着地。

 少し歩いて辿り着いたそこは、湖を囲むように多数の獣達が犇めくひしめく【賢老の集い】。

 ボクが立ってる正面にデカデカと月があるせいか、獣達の黒いシルエットしか見えなくてかなり怖いんですけど!

 そうやってビクビクしていると、シルエットの一つが問いかけてきた。


「し、侵入と言いますか……その……誘拐されて……きて……」


「おいフェンガリル、シェリアリアが怖がっているであろう。 面通しに来ただけだと言うのに、無用な威圧を飛ばすでない。 そも侵入と言うが、我ら主は森を管理しているにすぎず所有しているわけではない。 森は来るものは拒まないはずであったが……お前のところは違うのか?」


 勝手に言葉がつっかえつっかえになってしまい、それが余計に焦りを生んでしまう。

 そこにドラゴンさんが助け舟を出してくれて涙目になる。

 ありがとうドラゴンさん、イケメンすぎる!


わしは油断を好まぬ、幼子の見た目であろうと警戒をするのは当然のこと。 森も人間を好まぬ、理由など語る意味もないが賢老の集いに人間が居らぬことがその証明であろうよ」


「フェンガリルよ、お前の足元に蟻がおるぞ? ほれ警戒せよ、攻撃してくるかもしれぬ。 有言実行せよ、先の言葉に虚がないのであれば即座に警戒すべきだろう? いや、そこまで近付かれている時点で警戒などしておらぬ証明ではないか、滑稽な。 森が人間を好まぬと言ったが、人間が森に適応できなかっただけのこと、森は何者も拒絶などしておらぬ。 現にシェリアリアが一月暮らしても健在であるし森から害など与えられておらぬ、それはどう説明するのだ。 賢老の集いに人間がらぬのも同じ、適応できず森にられぬのなら集いにる方がおかしかろう。 くっくっく、だがそれもまた覆ったわけだ、今ここに人間のシェリアリアがるのだからな。 ノミも窮屈で逃げ出すほど狭き心のフェンガリルよ、ほれ、説明せよ!」


「ぐっ……!」


 ドラゴンさんが端々に怒気を含ませながら言葉を紡ぐと、フェンガリルと呼ばれたシルエットは押し黙ってしまった。

 マジかっこいい……あ、惚れそう、いや惚れてたわ既に。

 っていうか、さすがに蟻は極端すぎるっていうか無理があるっていうか……言葉に詰まる方も大概だけど。


「ホッホッホー、そこまでにしておくのじゃ、試練の森の主エンシェントドラゴンよ。 そこなシェリアリアという少女が居着くのであろう? 無用な面倒事を避けるために面通しに来たと言うのに争いを起こしては何も意味がなくなってしまうじゃろうて」


 にらみ合う二人(?)の間に入るように優しい声が降ってくる。

 バサバサと音が聞こえたと思うと、ボクと同じくらいの大きさの白いフクロウが大岩の上に降り立った。


「こんなにも戸惑って可哀想に、どちらも少しは自重せい。 フェンガリルの物言いに思う所もあるがエンシェントドラゴン、お前もお前じゃ、連れてきた幼子を置いて言い合いなど……何時まで経っても子供で困ったものじゃのう? ん?」


 白いフクロウがそう言うと、周囲からクスクスと笑い声が漏れ聞こえてくる。

 このフクロウさん強い! ドラゴンさんもフェンガリルというシルエットもタジタジだ!

 っていうかエンシェントドラゴンって、最古の竜とかそういう意味じゃなかったっけ?


「さてお嬢さん、我らも何故この森にお嬢さんが来たのか気になっておる。 リュクリルラースからは人間の子供が来たとしか聞いておらぬでな、詳しい経緯を何も知らんのじゃ。 全てでなくとも良い、聞かせてくれぬかの?」


 まぁそうだよね、得体の知れない幼児なんて怪しさしかないわけだし。

 ちらりとドラゴンさんを見ると、フンッと鼻を鳴らして顎をしゃくる。

 それに小さく頷いて一歩踏み出し、大事なところは詳しく、全体的に簡単に説明をした。

 森全体に複数の咆哮が響き渡った……。

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