記録:五頁目

 記録:五頁目


 手にジャリジャリしたものと、草? か何かが触れてる。

 真っ先に感じた匂い、これが何なのか分からない。

 それと、とんでもなく強く鉄の臭いが鼻を突いてくる。

 あと体が痛い? なんで?

 すごく痛いわけじゃないけど、体の所々が地味に痛いんですけど!

 なんだか全身がムズムズする気がして体を縮こませると不意に声が聞こえてきた。


〈チュートリアルを開始致します。 チュートリアル第一回:ステータスを確認しよう〉


〈あと目を開けてください、閉じたままですよ〉


 あ、だから真っ暗だったのか、全然気付かなかった。

 って、チュートリアルってなんで? そんなのあるって聞いてないよ?


〈創造神アルゼリアスによるオマケだそうです、オマケ扱いは遺憾です〉


 僕はオマケなんてこれっぽっちも思ってないからね!?

 むしろ誰かの声が聞けて安心すらしたからね!!


〈ありがとうございます、短い間ですがよろしくお願いします〉


 うん、よろしくね!


〈それで、まだ目は開けないんですか? そのままではステータスも見れませんよ?〉


 あぁごめんごめん、なんか目を閉じてても違和感がなくて忘れてた。

 苦笑いをしながら目を開けると、地面が横にあった。

 まぁ最初から倒れてるってわかってるから当たり前なんだけどさ。

 視線の先には木々と草むら、木の密集具合的に森の中っぽい?


〈現在地は【試練の森】です。 中心地に進むほど強力な魔獣や魔物が出てきますのでご注意ください〉


 ん? 試練の森? なんでそんなところにいるんだ?

 そう思って何かを思い出そうとしてみると、生まれた時から目覚める直前までの記憶が一気に頭の中を走り抜けて行った。


 左手で頭を押さえながら軽く息を整える。

 ふぅ……良かった、違和感は何もない、詞愛瑠としての僕もシェリアリアとしてのボクも、僕はボクだとしっかり理解できる。

 正確には思い出したんじゃない、整理されてしっかり思い出せるようになった感じ。

 女神様からもらったスキルが早速役に立ってくれたな、詞愛瑠の記憶とシェリアリアの記憶が複雑に絡み合ってたのを綺麗にほどいて整理整頓されてちゃんと思い出せた。


 っていうか、ボク誘拐されて此処に来てるんじゃん……うぇえ……。

 楽しく世界を満喫する予定だったのに、と思いながらなんとなく周囲を見てみると、少し離れた所に男の死体があった。

 上半身と下半身が分かれ、内臓が尾を引いている。

 唐突に目覚めた時に気付いた鉄のような臭いが鼻を刺激し、急速に吐き気が襲ってくる。


 咄嗟に口を押さえて喉にチカラを込める。

 瞬間、気付けば走り出していた。

 詞愛瑠として、走るどころか歩いたことすらないのに、走っている。

 しかし、混乱していたこの時のボクはそのことに全く気付いていなかったのであった。


 …………


 ……


 ここは何処だ……?


〈ここは【試練の森:中心部】にある、巨木の根本にある穴の中です〉


 巨木の穴の中……あぁそっか、そこに逃げ込んだんだったっけ……。

 ようやく思い出してきた、死体だ、死体があった。

 口や鼻から血が出てて、体が二つに分かれてて、内臓が……うぷっ!

 はぁ……はぁ……メチャクチャに走っちゃったから、もう森の出方もわからないや……。


〈何度もお声がけしましたよ? もはや聞こえていない様子でしたので、十回目で諦めましたけれど〉


 ごめん、うっすら声が聞こえてたような気がするけど、耳に入ってなかった。


〈大丈夫です、チュートリアルはどこでもできますので。 気分は落ち着かれましたか?〉


 あ、はい、大丈夫です。

 すみません、ご迷惑おかけしました。


〈いえ。 では改めまして……チュートリアル第一回:ステータスを確認しよう〉


 えーっとステータスか、どうやって確認したらいいんだろう?

 のそのそと座り方を正座に変えながら、やり方が分からないことに頭をかしげる。

 チュートリアルさん、はちょっと長いな、えっとトリアさん。


〈トリア、いいですね、今からワタシはトリアです、よろしくお願いします。 ステータスの確認の仕方は、手のひらを見ながら【鑑定アプレイザル】と唱えてください〉


 おっ気に入ってくれたのかな、良かった。

 アプレイザル、鑑定を使えるってことでいいのかな?

 ではさっそく……えっと、手のひらを見ながら……鑑定アプレイザル



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 名前/シェリアリア・コールソン

 種族/人間

 性別/両性

 年齢/五才

 職業/幻想級魔導錬金術師マギ・アルケミスト・ファンタズマ

 スキル/

  強化ブースト系/

   記憶力強化メモリーブースト自然治癒力強化ナチュラルヒーリングブースト六感強化センスブースト体力強化スタミナブースト筋力強化マッスルブースト魔力強化:八重マジックブースト:オクタ

  適性タレント系/

   刃物適性エッジ・タレント遠距離武器適性ロングレンジウェポン・タレント罠適性トラップ・タレント

  魔法マジック系/

   ☆幻想級魔導師マギ・ファンタズマ魔力制御マジックコントロール魔力眼マジック・アイ

  隠密カバー系/

   ★隠密行動カバーアクション

  生産クラフト系/

   ☆幻想級錬金術師アルケミスト・ファンタズマ、☆科学者サイエンティスト、☆魔機工師マシニスト第二の両腕セカンドアーム

   ☆料理人コック、☆菓子職人パティシエ、☆醸造家ブルーワー、☆農家ファーマー、☆栽培師グロウア

   ☆裁縫師テイラー、☆刺繍師エンブロイダラー、☆服飾師ドレッサー、☆装飾師アクセサリスト、☆靴職人シューザー、☆細工師クラフトマン

   ☆石工師メイソン、☆木工師ウッドワーカー、☆大工カーペンター、☆彫金師チェーサー、☆革職人レザークラフター

   ☆鍛冶師スミス、☆陶芸師ポッター、☆硝子職人グラッサー、☆和紙職人ペーパラー

   ☆人形作家ドールアーティスト、☆造形師スカルプター、☆楽器職人サウンドライト

  芸術アート系/

   ☆神絵師イラストレーター、☆漫画家カートゥニスト、☆塗装師ペインター、☆文豪リテラリーマスター

   ☆演奏家パフォーマー、☆歌姫ディーヴァ、☆作詞家リリシスト、☆作曲家コンポーサー

  商売ビジネス系/

   収納インベントリ鑑定アプレイザル

  生活ライフ系/

   歩行ウォーク走行ラン登攀クライム暗算メンタルマス

   ☆解体師カーバー、☆採取師コレクター、☆伐採師フェラー、☆採掘師マイナー、☆釣り師フィッシャー

   ☆洗濯師ウォッシャー、☆掃除師クリーナー、☆美容師ヘアドレッサー、☆化粧師メイクアッパー

  調教テイム系/

   動物魅了アニマルチャーム、☆飼育師ブリーダー、☆調教師トレーナー、☆動物美容師トリマー、☆畜産農家ライブストックファーマー

  独自ユニーク系/

   超越者:五不トランセンド:ファイブアンチ

  その他アザー

   礼儀作法エチケット舞踊ダンス、☆手品師マジシャン、☆占術師フォーチュンテラー、☆星占術師アストロロガー霊視クレアボヤンス

 称号/転生者、スキル狂い、職業神の祝福、運命の方舟、精霊契約者、創造神の愛し子:きわみ、女神達の観察対象

 一言/将来や趣味のことを考えて沢山スキル付与しましたが、状況的にも悪くない選択だったようです、是非役立ててください



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「情報量!!」


 半透明のパネルが現れたと思ったら、文字の多さに目が痛くなったよ!

 咄嗟に首ごとパネルから視線を逸らす。

 なにこれ、ちょっと……いや全く理解が追いつかない!


〈創造神アルザリアスが頑張ったようですね〉


「頑張ったとかそういうレベルなのかな? ……いや、一生懸命選んでくれたのは本当に嬉しいんだけどさ」


〈それよりも気になったのですが〉


「なに?」


〈シェリアリアはそのような声をされていたんですね、とても可愛らしいです〉


「え? 声? ……そういえばボク喋ってる! そっか、あはは! 喋るってこういう感じなんだね!」


 前世では喋ることができなかったから、すっごく変な感じ。

 シェリアリアとして普通に喋ってたのに、ボクの記憶が混ざったせいかすっかり【喋る】ってことを忘れてたよ。


〈今は座ってますし、先程は歩いたり走ったりもしていましたよ? 喋らないのは何か意味があるのかと思ってましたが……違ったんですね、とても可愛らしいです〉


「そうだった! うわー! 生まれて初めての経験を四つも無意識にやってた! もっとじっくりと感動に浸りたかったのに……!」


 思わず泣きそうになったけど、そこはグッとこらえる。

 今からだって遅くないんだ、これから先、前世でできなかったことができるんだし!


〈ふふふ、ステータスの確認に戻りましょうか〉


「あ、そうだったね、この文字の塊を確認しないと……」


 ちょっと見るのが怖いけど、見ないわけにはいかないもんね。

 ゴクリと喉を鳴らして、改めて半透明の板に視線を向けるのであった。



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「アルザリアスちゃん、ちょっとやりすぎじゃない?」


 ラクシュミーがそういうと、アルザリアスは小首を傾げる。


「そうでしょうか? 選択肢が多いことは良いことだと思いますけど……」


「人間っていうのは選択肢が多すぎると迷ってしまって、逆に決められなくなっちゃうクマ」


「ふふ……ふふふ……ダメ、面白すぎますわ……ふふふ……」


「あなた達が罰ゲームだって強要してるクマ! そんなに笑うことないじゃないのよ! ……クマ!」


 アルティオが吠えるが、語尾が面白すぎて笑いが止まらない太陰星君たいいんせいくんは大きく肩を揺らしながら必死に笑いを堪らえようとする。

 その様子がさらに嫌だったようで、アルティオがちょっと涙目になってしまった。


「そうだったんですね、悪いことをしてしまいました……」


「大丈夫ですよ、アルザリアスさん」


 しょんぼりとしてしまったアルザリアスに、大宜都比売神おおげつひめのかみが優しく声をかけた。


「私たちの世界の子を大事に思ってくださった結果ですし、そう悪いことにはならないと思います。 健康に恵まれなかった子に様々な可能性を示した、これからどう生きるのか楽しみではありませんか」


「オオゲツさん……そうですね、まさかこんな状況になってるとは思いませんでしたが、結果的に生きるための手段も得られたわけですし、少しは前向きに捉えてもいいですよね」


「良いと思います。 これからゆっくり見守っていきましょう」


 大宜都比売神おおげつひめのかみが優しく微笑み、ぱぁっと笑顔になった(なってると本人は思っている)アルザリアスは、紅茶を一口含む。


「まぁ面白そうな子ではあるのよね、ここまで無垢な魂なんて赤ちゃん以外に初めて見たし」


「……そうクマね。 良くも悪くも人が居ない場所に来たようだし、これからどんな色に染まっていくのか楽しみクマ」


「ふっ……ふふふ……ふぅ……それよりも気になるのは、こんな場所で【運命の方舟】がちゃんと機能するかという点ですわね、ずっと独りでは染まりようがありませんもの」


「心配なさらずとも大丈夫ですよ。 どの世界でも共通ですが称号の効果は絶対ですので、運命に導かれた存在が自然と彼の地にやって来ることでしょう。 良い運命も、悪い運命も、ですが……」


「あまり女の子多くないといいな……」


「愛が重いクマ」


「ぶふっ!」


「笑いすぎクマアアアアアア!!!」


 アルティオが立ち上がると、身の危険を察した太陰星君たいいんせいくんは咄嗟に逃げ出す。

 それを見てドスドスと追いかけ回すが、その顔が笑顔だったのは楽しんでいる証拠なのだろう。

 そんな二柱を微笑ましく見ながら、他の三柱はゆっくりとお茶を飲むのであった。





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作者のつぶやき


 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 あれこれ悩みながら設定を考えて、どうにかこうにか書き進めている感じです。

 楽しんでいただけていたら嬉しいです。


 さて本題ですが……。

 スキルについて補足というか言い訳というか。

 スキル名に振られたルビに聞き慣れない言葉が含まれています。

 基本的にはきちんと翻訳をして決めてますが、一部はニュアンスだったり言葉を作ったりしながら書いています。

 硝子職人グラッサーとか和紙職人ペーパラーって何やねんって感じですし、楽器職人サウンドライトに至っては勝手に作った造語ですし……。

 異世界だし正確な翻訳じゃなくてもいいよね、とか自分に言い聞かせながらって感じです。

 おかしいと思うかもしれませんが、そういうものと思ってもらえると嬉しいです。

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