終章 天使、あるべき場所へ
第三十六話 異例なこと
「よくやりましたね、リア」
天界。神々の境界。またここに訪れることがあるとは思わなかった。ここは上級天使しか入ることは許されない、神聖な場所なのだから。
「デフェルだけではない、多くのものを助け、導いた功績を讃えよう」
「堕天使を元に戻す方法を編み出したことも素晴らしい働きだった」
「もったいなきお言葉……ありがとうございます」
頭を下げた途端に、アヴィミウス神がこちらに手を伸ばす。長髪の、相変わらず美しい神だ。
「ただ、貴方は一つ、変化を受け入れなくてはなりません」
「へんか、ですか?」
彼らが言うには、倒された私をここに召喚して天使の体に戻すために、神の力を多く注がれたという話だった。
私は十分すぎるほど神々からの力を受けて、今は力をたくさん持っている状態らしい。
「よって、ここに天使リアの階級を上級天使へと昇格する」
「ええ!」
「よかったですね、リア。天使の階級が上がるなんて、普通はありえないことですよ」
ルウベス様は初めから知っていたというふうに笑っていた。だから私、この場所にまたこられたのですか。今頭が追いつきました。
「上級天使であれば、任務ではなく、様々な場所へ自主的に行動できます。下界の友に会いたくなったら、いつでも出向きなさい。見たところ、貴方を待っているようでしたよ」
「本当ですか……! ありがとうございます」
正直キラアたちとはあれっきりかと思っていたので少しホッとした。そっか、会ってもいいんだ。また、友人として迎えてくれるかな。
考えていると、そっと頭に手を置かれる。ルウベス様だ。
「それでは俺たちはこれで失礼します。他の天使たちにリアの昇格を伝えなければ。特にナイトにはね」
「ああ、任せたぞルウベス」
そのままルウベス様は私を連れてナイト家へ向かった。ナイト家には下界に行ってから顔を出していない。あまり行きたくはなかったが、ルウベス様に是非と言われれば断れまい。私一人じゃないのだからきっと大丈夫……なはずだ。
「あら、リアじゃない。何しにきたの?」
屋敷に入って早々にラヴィに出くわす。ああ、相変わらず可哀想な天使だ。何もかもが乏しい。彼女は顎をツンとあげて私を見下すように笑った。
「いつ見ても間抜けな顔ね。ああ近寄らないで。下界の匂いが移っちゃう」
右手を振られてまたため息が漏れそうになる。御師匠様が見つかって本当に良かった。またここに戻るとなったら私もデフェル様と同じ道を選んでしまったかもしれない。
「口がついていないの? 失礼な居候ね。あら? 後ろの方はどなた? 下界の執事かしら」
私の後ろに立っているのはもちろんルウベス様だ。本人は何も言わずに黙っている。しかし失礼な物言いは見逃せない。お師匠様が何も言わないならば、私が反論しなければ!
「ラヴィ、貴方……っ」
「なに? ああ、下界に降りたら語彙が失われてしまうのかしら。こうなりたくはないわね」
私たちを見ながら彼女は下品な笑い声をあげた。
この娘は、ルウベス様すら見下すのか。ああ無知な高飛車はこれだから罪深い。私が言い返そうとしたとき、屋敷の奥から大きな音が聞こえた。
「ルウベス様……」
たまたまその場に現れたロディが本を取り落としたようで、その表情には動揺が伺える。彼はすぐにこちらに走り寄り、頭と目線を軽く下げた。
「なっ!?」
その様子を見て、ラヴィは目を見開いている。
「どうして貴方様とリアがここに? もう、下界の件は大丈夫なのですか」
「ええ。全て終わりましたよ。リアがお世話になったナイト家に、ご挨拶とご報告に参りました」
ルウベス様が告げると同時に、ラヴィの顔が真っ赤になっていく。考えていることは、手に取るようにわかった。
「ちょっとお兄様、なぜ頭を下げるの!? お兄様は中級天使なのよ! こんな下の、下界担当のやつらにーー」
ラヴィは信じられないと言ったふうに声を荒げていた。
自分が大きな勘違いをしているとは知らずに。
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