第三十話 覚悟を決めましょう

 大きな音を立てて、私は生み出した魔法陣でルウベス様の攻撃を受け止めていた。


「……?」


 あれ? と思う。攻撃を受けているはずなのに、衝撃が少ない。むしろ、力が増幅している気すらする。天使の力が溢れてくるようだった。


「リア、どうした?!」

「まさか怪我?」


 みんなが心配そうにこちらを覗き込んでくる。ああ、本当にいい人たちだ。私は首を横に振った。


「いや……違うの」


 ルウベス様にそっと視線を送る。


「あっ……!」


 彼はかつての御優しい笑みを浮かべてこちらに僅かに頷いていた。なるほど、意図がよくわかりました。

 おそらくルウベス様は、最初から魔族側についていなかったということですね。今も攻撃するふりをして、私に力を分け与えてくださっている。ラウーンには攻撃しているように上手く見せているようです。


「ならば……」


 私も一芝居打たなければなりません。腰を落として耐えるような表情を作る。そうすれば、ラウーンは大層嬉しそうに笑った。ふふ、お馬鹿さんめ。簡単に騙されている。


 御師匠様から流れてくる力の大きさで、この魔法を打ちなさいと指示されているようだった。わかりました。私が完璧に成し遂げましょう。


 ルウベス様の攻撃(力の供給)を受け切った瞬間に攻撃の準備が完成する。


 さあ、反撃開始だ。


 私はラウーンに照準を合わせて、両手を向ける。背後から攻撃の気配が感じられないところを見ると、この場にいる悪魔や魔族の敵意はこちらに向いてないようだ。なら心置きなく前方に集中できる。


「クソっ……! 魔族共を味方につけるなど……! ルウベス! 殺れっ!!」


 焦りにより我を忘れてラウーンはルウベス様に言い放った。しかし、ルウベス様はゆっくりを背後を振り返り、目にも止まらぬ速さでラウーンの背後に回った。ラウーンは咄嗟に避けようとするが、それは叶わない。


「何をするっ!!」


 そして次の瞬間、ルウベス様はラウーンの動きを封じた。


「リア! 攻撃なさい!!」


 ルウベス様はラウーンを羽交い締めにして動きを止めてくれている。チャンスは今しかない。

 ……でも。


「そのままではルウベス様が……!」

「躊躇う余裕はありません。早く!」


 いくらルウベス様でも、自分のほぼ全力と、私の総出力の力に攻撃されればただでは済まないだろう。しかし、あまり時間はない。それに、この魔族は、多くの中級天使を手にかけている。

 放置すれば、また繰り返すだろう。


「あああああああああ!!!!!」


 私は叫びながら、ありったけの力を注いで目の前の敵に攻撃を放った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る