第二十九話 師弟対決

「……っ!」


 よし。こちらの攻撃はラウーンに効いている。防御に割く余裕がなくて、こちらもルウベス様の攻撃をくらってしまったが仕方がない。このまま繰り返していれば倒せるはず。先にこちらが落ちる可能性もあるけれど、ルウベス様にトドメを刺されるならまだ納得できた。どこぞの魔族に殺されるよりだいぶマシだろう。


「ぐっ!!!」


 体が大きく吹き飛ばされる。勢いが強くて羽を広げられない。このままじゃ会場の壁に打ち付けられる。

 どんっという衝撃の後に強制的に喉が開き、大量の息が漏れた。だが思ったほど痛くはない。むしろこれって……。


「大丈夫か、リア!」


 背後から聞こえた声に驚いて私は頭上を見上げる。キラアだ。心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「あ、りがとう……?」


 壁と私の間に体を挟んでくれたようで、衝撃が和らいでいた。でもどうして?

 悪魔の君が天使である私を守ってくれるのでしょうか……?


「見てらんないよ、こんなの」

「そうそう。リアは大切な友達だし?」

 そこにユーデとペタも加わってくれる。


「でも私、本当は……」

 私は今、大きな羽を生やした天使だ。敵対するのは魔族。彼らの親玉のような存在なのに。


「天使も悪魔も、あまり大きい差じゃないよ。これまで過ごしてきた毎日の方がボクには大事!」

「そう。話したことがない同胞(?)よりも、ずっと一緒にいたリアの方がオレは好きだよ」

「それにラウーンって言ったら、力が弱いから天使を堕天させてのし上がってるやつじゃない。アイツ、誰かを使わないと戦えないのよ」


 だから、一緒に戦う!


「みんな……」

 心強い仲間がいる。根拠のない自信だけれど、なんとかなるような気がしてきた。


 ”仲間……”

 ”他と関われば、いずれできるものです。リアならいい子たちが寄ってくることでしょう”


 ええ。御師匠様の言う通りでした。いい人たちが私の元に来てくださいましたよ。


「……さあ、続きといきましょうか」

 ルウベス様の攻撃が再開した。御師匠様にしては詰めが甘い。私たちが話をしている間に攻撃を打ち込めば、仕留められたかもしれないのに。もし仕留められなくても連携を崩すことくらいできるはずだ。攻撃しない選択はない。

 敵を目の前にして、らしくないな。


「……っ!」


 ゴオオオオオッと大きな音を立てて、ルウベス様が溜めた力をこちらに放ってきた。多分これが総出力だ。耐えられるか。建物は間違いなく崩れるだろう。まあ仕方がない。


「ああ……」


 そう思ったはいいけれど、この建物が崩れたら中にいるものたち全員が潰れる。教師陣は魔族なので外に出ることは容易いだろうが、生徒は別だ。魔法すら使えないものもいる。


「仕方ありませんね」


 私は一際大きな魔法陣を出し、ルウベス様の攻撃を全てそれで受けることにした。友人たちは私を助けてくれたのだ。他の悪魔を見殺しにするような慈悲のない真似はできない。


「リア! 危ない!!」


 飛び出そうとしてくるユーデをピャーナ先輩が抑えてくれているのが横目で見えた。その手には造花になったナートラが握られている。こちらの意図を完全にわかっているようだった。私はすっと両手を構える。


 さあ、来なさい。私が全て受け止めて見せましょう。

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