第二十八話 信念

 ルウベス様は何御躊躇いもなくこちらに攻撃を仕掛ける。


「リア様っ!! 御下がりください!」


 突然ナートラが私の前に手を広げて間に入った。すぐに劈くような悲鳴が聞こえる。ナートラの声だ。彼は天界にいるけれど天使ではない。力は当然、使えない。


「やめて、逃げて!! このままじゃ……!」

 私の声に、彼はゆっくりと首を横に振った。


「たかが造花の一本でございます。失うことで悲しみがあろうとも……その傷はすぐに癒えることでしょう」


 ”リア様をこうしてお守りできたことが、最高の誇りでございます”


「ナートラ!!!」


 シュゥゥゥゥ……と音を立てて絨毯から煙が上がっていた。そしてその中心には一輪の花が落ちている。これは造花。ナートラの本体だ。彼は造花に神の力を宿しただけの、天界の使いだった。

 もう、ただの物になってしまっている。


「そん……な」


 天使じゃないから彼は何かあっても争う力がない。なのに私を追って下界に付いてきてくれていたんだ。私はショックで膝をついた。どうしよう、また大事な存在を失ってしまうなんて……。


「休んでいる時間はありませんよ。さあ、次の攻撃です。今度は自分で受けてください」


 ルウベス様が手をかざす。すぐに耐えられないほどの大風が吹いた。御師匠様はナートラのことなんて何とも思っていないようだ。あのお優しいルウベス様が、こんな酷いことをするの? 本当に?


「っ!!」


 私は床に手をついて飛ばされないように耐える。花となったナートラは簡単に飛ばされてしまった。

 ああもう、どうしてこんなことに。御師匠様のことを深く考えるのはやめよう。真実を自覚した瞬間に自我を保てなくなる可能性がある。

 ただ、敵意剥き出しの彼を止める手立てがあるか? こんなところで力を使ってしまっては……と考えてすぐにそれをやめる。もうここは力を出し惜しみしている場合ではないか。


 ”我がここに現れたのは、中級天使リアを屠るためだ”


 それにラウーンは私の正体をすでにバラしてしまったし。完全体になって戦った方が賢いですよね。うん。


 ばさっと大きく羽を広げる。ドレスから出ていた羽とは比べ物にならないくらい大きく。

 できるだけ力を集めよう。狙いは一つ。御師匠様の後方で腕組みしている気味の悪い魔族だ。私がルウベス様に攻撃なんてできるわけがないのだから。


「っ!」


 御師匠様の攻撃を交わしながら接近する。そして力が及ぶ位置に来てからラウーンに攻撃を仕掛けた。


 当たれ、と祈りながら。

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