第二十七話 嵌められた天使

「魔族ラウーン……?」


 彼がその名を口にした瞬間に会場中が騒めいた。なんだなんだと辺りを見渡す。魔族や悪魔達が彼に釘付けだった。それほど有名人なのか。その……知らなくてすまない。


「魔王様の命により、中級天使どもを殲滅するべく参上した」


 その言葉を聞いた瞬間、体が震え上がる。御師匠様が先にロディーを天界に帰したのは素晴らしい判断だ。

 中級天使がこの魔族に狙われていたとは。というか最近天使が殺されてしまう事件が多発していましたが犯人貴方なんですね? 許すまじ。……しかしだ。この魔族に何人も殺られたのだと思うと恐怖が勝った。


「…………」


 御師匠様は黙ったままだ。

 敵ながら中級天使に的を絞っているのは大変賢い判断だと思う。天界の力を削ぐには、階級の高い天使を消した方がいい。

 たとえ天使であっても、神に接近するのは容易いことではないし、神が魔王と相見えるのも不可能に等しい。だから、神と魔のパワーバランスを壊すには、力を持った天使や魔族から手を出すのが一番手っ取り早い。


 だが、大抵の魔族が上級天使に勝つことはほぼ不可能。であれば当然、その下の階級の中級天使を狙うだろう。勝てるかどうかは魔族の力によるだろうが、相打ちになったとしても、中級天使ほどの階級が大量に消滅すれば、天界の力は大きく落ちる。だから遅れてでもここに現れたのだろう。


 でもここにロディーはいない。一足遅かったようだ。


「何を勘違いしている」

「えっ」


 しかし魔族は笑っていた。笑い声や表情の全てが気色悪い。一体何がそんなに面白いんですかね。そう思っていると、ラウーンの伸び切った爪が私を指さしていた。


「我がここに現れたのは、中級天使リアを屠るためだ」


 私はすぐに御師匠様を見つめた。御師匠様は私を中級天使として作り上げた張本人だ。私を天界に逃さなかったと言うことは何か策があるはず。そう思っていたが、その希望はすぐに砕かれてしまう。彼の目はもう、光を失っていたのだから。

 すごく、嫌な予感がした。


「さあ我が僕ルウベスよ。リアを手にかけろ」

「はい。ラウーン様」


 冷ややかな声がそう答える。


「そんな……!」


 どうしてこんなことを。まさか魔族と手を組んでいるなんて。拠りに拠ってあのルウベス様が。


「貴方と戦えるなんて光栄です。さあ、成長した姿を見せてください」


 では私は今、結構まずい状況にある。中級天使狩りをする魔族ラウーンと、上級天使ルウベス様を相手に、この場を納めなければならない。


 すでにルウベス様は私目掛けて力を溜め始めていた。

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