第二十六話 帰すべきものたち
ルウベス様はロディーの口から手を外し、彼と私に聞こえるほどの声量で告げた。
「アヴィミウス神からの命です。貴方は先に天界へ帰りなさい」
「しかし、他の中級天使達はリアを……!」
「わかっています。この先は俺が引き受けましょう」
有無を言わさぬ物言いにロディーは頷いて、彼は羽を広げずにその場から離れた。天使であることを告発する前なので、配慮してくれたのかもしれない。
「あのっ……!」
御師匠様と私はその背中を見送って、お互いに見合った。久しぶりすぎて緊張すらしてしまう。ああ、本物だ。許されるのなら、ペタにも合わせてあげたい。
「後一人。先に帰すべきものがいるようですね」
「えっ……?」
会場を二人で見回す。ロディーの声に驚いていた悪魔達はまだこちらの様子をうかがっていた。
「そこのもの。前に出なさい」
御師匠様に指を刺された一人は、会場の入り口からこちらを覗き込んでいた。その姿には十分すぎるくらい見覚えがある。黒服に灰色の短髪。
「な、ナートラ……!?」
そこにいたのはナイト家で私の執事をしていたナートラだ。あの家の中で圧力にも負けずに一番私に尽くしてくれていた人物。なぜこのようなところに。彼は天使じゃなく、神の力を与えられた飾り物だ。ここに来るのだけでも一苦労だろうに。
「隠れて君を見ていたようですよ」
「どうして……」
「私はリア様の執事です。ナイト家やその他の存在など、些細なこと。リア様をお慕いしている故、ここにいるだけでございます」
ナートラは胸に手を当てて頭を下げる。それに何も思わないように、御師匠様は鼻で笑った。やはりおかしい気がする。このような御顔をする人だっただろうか。そのまま、冷え切った声で言う。
「どうでもいいですね。貴方には早いところここから立ち退いていただきます」
「そんな!」
私が言い返す前に、会場に新たな気配が加わった。
「あ、あれは……!」
どす黒いオーラ。一眼見ただけで力のある魔族であることがわかる。青色のスーツ。髪型はオールバック。既視感がすごい。しかも最近の記憶だ。なんだろうと頭の中で検索をかける。
「あ」
”えっとね、ボクの仮装はーー”
結局答えを聞けなかった友人の仮装。きっとこの人物だろう。残念ながら本物を見ても誰だか存じ上げないが仕方がない。私は魔族に疎い天使様なのでね。
低い声が、続けた。
「我は魔族ラウーン……」
彼がその名を口にした瞬間に、会場中からざわめきが聞こえ始めていた。
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