第二十五話 天使の口封じ

「絶対に許さない。一人残らず処分する。もちろん計画の立案者もね」


 ロディーは私の手を引っ張りパーティ会場へ戻っていく。まずい、力が強くて止められない。このままでは、私の正体をバラされる。

 彼は私が任務で下界に降りている天使だと暴露し、ここにいる悪魔や魔族を皆殺しにするつもりだ。

 ああ、目が据わっている。これではどちらが悪かわからない。


「やめて、私はこんなこと望んでない!」

「ああ……。可愛い僕のリア。可哀想に。思考まで悪魔に毒されているなんてね。大丈夫、僕がすぐに解放してあげるから」


 ダメですね。何を言っても無駄なよう。こうなったら、ロディーが行動した後の対応を考えた方がいい。

 彼が悪魔たちを攻撃する瞬間にそれを打ち消して、すぐに天界へ飛び立つか……? 果たして怪力のロディーを引っ張っていけるのだろうか? いや、……出来ないな。


「全員僕の話を聞け!!!!」


 ロディーは会場に入るや否や、大声で周囲の注目を引いた。会場にはまだ、多くの学校関係者や生徒がパーティを楽しんでいる。

 私は手に力を込めた。ロディーが攻撃を発した瞬間にそれを打ち消すための力を。今はできることをやるしかない。


「今から非常に大事なことを伝えよう!」


 すうっ……とロディーが息を吸った。私はぎゅっと拳を握ることしかできない。


「むぐっ!?」


 しかし突然、ロディーの口が後ろから塞がれた。大きな手が彼の口を覆っている。ロディーは何が起こっているのかと振り向こうとするが、後ろから抑えられていてそれは叶わない。


 私はその様子を呆然と見ていた。ロディーが何か言おうとしていたことなど、今ではすごくちっぽけなことに思える。それくらいの衝撃を、ロディーの後ろに立つ人物から受けたのだ。


「……!」


 きっと私だけが、この状況を把握できている。ロディーの口を塞ぐ人物はマントを纏っているけれど、私にははっきりと誰だかわかった。


「んん〜〜〜!!」


 思わず目に涙が溜まる。ああ、私が見紛うわけがない。このお方は私の、大切なたった一人のファミリーなのですから。


「落ち着きなさい、ロディー」


 久しぶりに聞くその御声は透き通って、その場の視線を釘付けにする。ずっと焦がれてきた声だ。……待っていた声だった。


「おとなしく言うことが聞けるなら手を離しましょう」

 マントの男ーー御師匠様は冷ややかにそう言い放った。ロディーはコクコクと頷いている。やはり、上級天使の威厳はすごい。


「ぷはっ! あ、貴方は……!!」


 すっと人差し指を口元に当て、ルウベス様は嬉しそうに笑う。その美しさに感覚の全てを奪われ、昇天しそうになる程だった。やっぱり彼を目の前にすると、どうも頭が働かない。


 だから私は見抜けない。ずっと行方不明だった御師匠様がなぜ、今更目の前に現れたのかを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る