第七章 本当の悪者は誰でしょうか

第二十四話 歪んだ愛


「だっ、誰ぇぇぇええ!!!!」


 みなさん大変です。仮装パーティの帰りに突然後ろから抱きつかれております。顔は私の肩に埋めてられていて見えず、相手が誰かもわかりません。

 ああ、私は今日全てを失ってしまうのか。せっかく天使であることを隠せたというのに。


「リ、リア!! 今剥がすからな!!」

「ちょっといきなりアタシの友達に何すんの!!」

「何こいつ!! 力つえぇ!!」

 三人がかりでも、抱きついてる人を私から離れさせるのは難しいようだ。何という腕力だろう。

 あと、いきなり女の子に抱き付かないでください。意味わかりません。


「……リア」


 背中の人物がそっと私の名前を呼ぶ。懐かしい感じがした。知っている音と嗅ぎ慣れた匂い。

 待てよ……この人まさか……。


「ロディー……?」


 これまた懐かしい名前を呼ぶ。そうすると抱きついていた人物はそっと私から離れ、正面から肩を掴んだ。


 ああ、本当に久しぶりだ。


「会いたかったよ、僕の可愛い可愛いリア……!」


 彼の名はロディー ナイト。私が引き取られたナイト家の長男である。


「出張から帰ってきたら何だ、家に可愛いリアはないないし、代わりに見知らぬ女の子がいた。僕はすぐに、リアに何かあったと悟った」


 ずっと出張続きで家を空けていたのだから、帰宅した時はさぞ驚いたことだろう。彼が出て行った時と今とでは、ナイト家の様子はだいぶ変わっているのだから。


「聞けば悪魔の学校に通ったと……涙で海の面積を広げそうになったよ。ああ、とにかく無事で良かった」

「そうだね。下界も無事で良かった」


 ロディーは中級天使の中でも、天使の力も物理的にも強い方なので、本気を出せば地上の海水を増やすこともおそらくできる。洒落にならない。

 彼が些か歪んだような愛情を私に向けているのは知っていた。ほらもう、早口だし目が怖いもの。


「ありがとうロディ。私は無事ですのでご安心を。それじゃーー」

「こんなのおかしい。すぐに抗議しなければ。君ほどの階級がこんな任務を受けてはいけない」

「ちょっと、ロディー……!」


 私は他の三人にチラリと目をやった。昔の知り合いだと知り、気を使って会話には入ってこないけれど、聞こえてはいるのだろう。

 話が見えないようで首を傾げたままこちらを見ている。今はまだいいが、これ以上ロディーの口から天界にまつわる単語が出たらおしまいだ。


「全てを暴露しよう。先に奴らが襲ってきたところを撃てばいい。正当防衛なら尋問席で裁かれない。うっかり全部殺してしまってもね」

「ダメだってば、ロディー!!」


 止めようとしても彼は止まってくれない。彼はぎゅっと私の両肩を掴んだ。喉の奥からヒュッと高い音が漏れる。


「僕はね、リア」


 彼はにこりと笑った。


「すっごく怒っているんだよ」

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