第二十三話 天使のドレス

「…………」


 ハーイ! こんにちは! 私天使! 悪魔や魔族だらけのパーティで天使の力を使ってしまったよ! 立派な羽まで出しちゃった☆ バレちゃったら殺されるのにね! ア〜ァ! これからどうなるのかなぁ???

 ……なんてハイテンションで実況してみてもどうしようもない。私は背中に力を込める。いつでも飛んで逃げられるように。


 パーティ会場は静寂に包まれたままだ。誰も何も言わない。動きもしない。ああ、もう逃げよう。私はこの空気に耐えられません。


「……すごい」

「……?」


 ようやく誰かの声が聞こえた。するとそれをトリガーにしたように、歓声と拍手が少しずつ大きくなる。そのどれもが好意的なものに感じた。


「(あれ……? もしかしてバレてない……か?)」


「リア! すっごいじゃん! 天使っぽい羽まで出すなんてクオリティ高い!!」

「大丈夫? ごめんね、すぐ助けてあげられなかった」

 ペタとユーデの声にハッとする。ああ、なるほど。さっきの力は仮装の一部だと思われているわけだ。これはもう乗るしかない。

 私はパチン、と指を鳴らし、広げられた白い羽を背中にしまった。


「引っ込めることもできるの。すごいドレスでしょ?」

「スッゲェ……!」


 それからはもう賞賛の嵐だった。先生達はシャンデリアの片付けと、あの後しばらく暴れ回っていた刃物の回収をしてくれる。

 ほんのわずかな時間で、パーティは再開された。私の周りには代わる代わる生徒が訪れ、それはもう大人気だった。その時になってようやく気がついたが、仮面をつけていたのも功をなしていたらしい。苦しゅうない。


「(ああ、完璧だ……!)」


 思わず笑みがこぼれそうになる。天使の力を目の前で披露し、羽まで広げたのに正体がバレなかったのだから。私、実はものすごい天才なのかもしれない。


「ん〜、お腹いっぱい! ボク達もそろそろ帰ろっか!」

 しばらく楽しんだ後のこと。キラアの言葉に全員が頷く。パーティ自体は少し前にお開きになっていて、既に自由参加の時間となっていた。


 先ほどまでの賞賛を思い出す。いい気分だ。心の中でほくそ笑みながら、みんなに囲まれた私はパーティ会場を後にする。


「はあ〜。どうなることかと思ったけど、楽しかった〜」

「うん。どうなることかと思ったけどね」

 キラアはげっそりとしながら私にお礼を言ってきた。私は駆け足で数歩進んでみんなに向き直る。


「無事で良かったよ。本当に」


 そう言えばみんながにこりと笑った。ああ、今日は素晴らしい日だ。パーティーも楽しかったし。そう思うと同時に、一つの違和感に気がついた。


「?」

 何者かの気配。位置は私の真後ろだ。


 ぎゅっ


「……?」


 ぎゅっ……? 私の背中から、誰かの腕が伸びている。その腕の持ち主は私のことを堅く抱きしめていた。三人のギョッとした目がこちらに向いている。な、なんだなんだ? 私はありったけの声量で声を張り上げた。


「だっ、誰ぇぇぇええ!!!!」

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