第十八話 急上昇、急降下

 ビョーン!


 キラアに話は聞いてはいたが、私が飛び込んだ瞬間、トランポリンは聞いた通りの音を立てた。


「わわっ」


 私の体は高く跳ね上がり、塔の横をぐんぐん上昇していく。ある程度の高度に達したら塔にしがみついて、あとは上に登らなければならない。改めて思うがなんなんだこの競技。


「っ」


 アンカーを務めると決まってから今日までの間、私は血の滲むような努力をしてきた。だって塔にしがみついて登るのだから。並大抵のことではない。

「!」

 すぐ後ろに気配を感じた。手足を動かしながらそっと斜め下に視線を送る。


「おいついた」

「あ」

 そこには私と同じように塔にしがみついたピャーナ先輩がいた。まずい、かなり距離は離れていたはずなのに。そう焦るうちに、彼は私の隣に並んだ。


「ま、負けませんよ!」

「頑張って」

 私たちは塔のてっぺんに手が届く高さに到達した。二人で手を伸ばす。

「んっ……!」

「ぐっ!」

 先輩の方が手が長くて、リーチで負けている。でも……!

「っ」

「よし取った……」

 先輩にあっけなくボールを取られる。やられた、負けてーー。


 ぐらっ


 体のバランスが、大きく崩れるのを感じた。ああ、まずい。落ちる。


「しまったーー……リア!」


 こうして、急降下する私に手を伸ばし、ニヒルに笑うピャーナ先輩の図が出来上がったというわけである。先輩が何故笑っているのかは知らないが、今は思考のたどり着いたままに動くしかない。……もしもがあったら化けて出てやる。

「キラア! ユーデ!! ペタァァアア!!!」

 友人の名前を叫んだ。これがルウベス様から授けられた知恵だ。間違いはない。


 ボフッ!!!


 落下した時、私の体は背中から、巨大なクッションに受け止められていた。

「!」

「リア、大丈夫!?」

「怪我は?」

「大丈夫そう。……ありがとう、助かった」


 クッションの上に名前を呼んだ友人達が登ってくる。ああ、本当に救われたのだと安心した。目を凝らすと、塔の方にまだピャーナ先輩がいるように見える。


 もしかしたら先輩にはクッションが見えて、私が助かるとわかったので笑っていたのかもしれない。


「よかったー。たまたま大きいクッションがあってよかったね」

「ほら、捕まって」

 ペタに手を引かれて私は起き上がった。

「このクッション、どうしたの?」

「それはね」

 三人は少し前の出来事を話してくれた。


 ユーデは私にリボンを渡して塔の下でそのまま私を見ていたらしい。しかし、ちょうどてっぺんあたりで私の体が傾くのが目に入った。


「リア!!」


 私が落ちると焦った三人が当たりを見渡すと、先ほどまではなかったはずの場所に、巨大なクッションが置かれていたという。


「こ、こんなところに大きいクッションが……!」

「ちょうど良すぎる〜……!」

「いいから運ぼ! 間に合わない!」


 それから近くにいる生徒達の協力も仰いで、クッションを落下地点に置いてくれたらしい。


 何故クッションがあったのかは知らないが、まあいい。命が助かったのだから。やはりルウベス様の教えは正しかったのだ。そう安堵していると、荒い靴音が聞こえる。それは徐々に大きくなっていった。


「リア!」


「せ、先生……?」

 息を切らしたラッグ先生は大変ご立腹のようで、私の後ろの壁に上からどんっと手をついた。

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