第五章 危険なスポーツ

第十六章 落下ダメージの回避方法


「しまったーー……リア!」


 こちらに手を伸ばすピャーナ先輩。その顔はとても焦っている。それもそうだ。今、私の体は絶賛急降下中なのだから。早速ですが大ピンチです。先輩の手は取り損ねました。

「っ!」


 羽を広げれば助かるだろう。でも、そんなことをすれば、天使であると一発でバレてしまう。それは却下。

 たかが球技大会でこんな事態になろうとは。ああ、どうしようかな本当に。私はありえない速度で頭を回転させる。


「受け身……そっか!」


 私には御師匠様から教わった受け身があるじゃないか。私はその時の記憶をものすごいスピードで引っ張り出した。


「いいですか、リア」

「はい、御師匠様」

 庭園内の広場で、私は御師匠様を見上げる。

「いずれあなたも、魔の力を持つものと戦うことになるでしょう。攻撃された際に、高所から落下する場合も十分にあります。今日はその対処法を教えますね」


 御師匠様はバッと大きな羽を広げる。その勢いで辺りに風が巻き起こった。すごい迫力だ。羽も真っ白で御美しい。


「一番は冷静になって羽を広げることです。浮遊すれば落下ダメージはありません」

 そう言って、風で乱れた私の髪を整えてくれる。そういうところも優しくで素敵だった。見惚れていると、「大事なことです。ちゃんと聞いて」と釘を刺される。はい、聞きます。


「しかし、羽を広げられない状況というのも、もちろんあります。その時は、羽が生える……ここ」

「ひゃっ」

 私の背中を指でとんっと叩いた。くすぐったくて体が少し跳ねる。

「ここは少しだけ丈夫ですから。羽が生える場所で落ちて、頭を死守しなさい」

「わ、わかりました」

「打ちどころが悪ければ最悪死にますので、うまく力を使うこと。あとーー……」

 ぴっと人差し指を掲げて御師匠様は微笑んだ。


「どうしようもない場合は、最悪にならないために、できるだけ仲間を呼んでみましょう。なんとかなるかもしれません」


「仲間……」

「他と関われば、いずれできるものです。リアならいい子たちが寄ってくることでしょう」


 御師匠様、教えを活かす日が遂に来たようです。


 私は大きく大きく息を吸った。 

「キラア! ユーデ!! ペタァァアア!!!」

 友人達の名前を片っ端から叫びまくる。視界には手を伸ばすピャーナ先輩しかいないけど。彼は塔のてっぺんから、まっすぐ私を見つめている。

「ふっ……」


「え」


 私は見えた光景に大きく目を見開いた。心がざわつき、恐怖にざっと血の気が引いた。まあそれは急降下しているのもあるけれど。でも心がざわついたのは、先輩を見たから。


 視線の先のピャーナ先輩が、大変嬉しそうに笑っていたからだ。

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