第四話 私の黒い羽

 羽を広げるテスト。ついに私の名前が呼ばれる。

「はい」

 用意した仕掛けは左しか使えないが仕方ない。私は椅子の貫(ぬき)に足をかけて高く飛び上がった。開かれたカーテンの間から注ぐ日光がそれまたいい仕事をしているに違いない。

 一気に左肩から伸びる紐を引っ張った瞬間、背中から少しの風とバサリと羽を広げるような音が届いた。


「(完璧だ……!)」


「おお……!」

 生徒達から感嘆の声が漏れている。拍手をするものすらいた。そうだろうそうだろう。さぞ素晴らしかったことだろう。そう思っているとあたりが暗くなるのを感じる。足元を何か黒い影が這っていったのが見えた気がしたが、思い過ごしだろう。


 幻覚を見るほどとは……思いの外緊張していたようだ。

「次……おい、誰だカーテンを閉めたのは。開けろ」

 カーテンが開かれて羽広げの確認は続いていく。ああ、うまく乗り切った。心はとても充実している。新しい学園生活の良すぎるスタートとなった。


 その後寮に帰り、そっと背中からコーヒーを抽出する。袋はきっちり塞がれていて、真っ黒の液体が袋の中で揺れていた。こぼさないようにカップに注ぐと鼻孔をくすぐるいい匂いが届く。


「いただきます」

 砂糖とミルクをたっぷりと注ぎ、空中で乾杯の動きをしてからコーヒーを口に流し込んだ。

「おいしい」

 仕掛けが作動した後なので、味が落ちるのは覚悟していた……が、それは一切感じられず、勝利のコーヒーはとてつもなく美味しかった。

 冗談抜きで異常に美味しい。思わず顔が綻ぶ。今日はいいことばかりだ。この喜びを糧に明日からまた頑張っていこう。今夜は気分が上がって眠れそうにない。


「おいこらぁ。待てや」

 昨日意気込んだのも束の間。翌日の朝、早速校内で先輩達に絡まれてしまった。何故だ。

「なんだぁ、その髪色はぁ?」

 そう言われてやっと気がつく。しまった、今朝は黒髪に変えるのを忘れていた。今の私は天使の時の髪色で、頭のてっぺんだけうっすら紫、そして全体は白髪だ。これはまずいことになった。


「生意気な色だなぁ? あぁ!?」

「ほら、調子乗んなよ?」

 先輩が生意気な色と言い、私を天使と断定していないのは、悪魔にも白髪はいなくはないからだ。

 しかし悪魔は基本、地毛は黒のはずで、力を持った悪魔たちが染めて白髪にする。所謂お洒落であり、入学二日目の一年生がするファッションじゃない。調べはついている。


「いっ!!」

 一人に頭を鷲掴みにされる。そしてもう一人が紙コップを私の頭に近づけた。コップには謎の液体が入れられている。

 本当にまずい。二日目からもう正体がバレてしまうかもしれない。

 あと頭から変なものをかけられるのは嫌だ。しかし頭を押さえつけられていてはどうしようもない。


「ほーら、じっとしろ」

 私は恐怖に怯えたままぎゅっと固く目を瞑った。

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