人類の夢想(ゆめ)――Isekai
「敵宇宙戦艦、静止衛星軌道上より降下開始を継続。外気圏より降下中です」
技術将校の報告に、艦長が頷く。
「もっと引きつけて撃ち落としたいところだ」
「――熱圏突破。すぐに中間圏に突入します」
技術将校の言葉に、呼びかける艦長。
「紅炎砲、準備せよ!」
艦長の号令とともに、副長二人が動く。
クラフ島の中心から、巨大な砲が二門出現して展開する。10キロメートルもの長大な砲に、帝国兵たちはざわめいた。
「ペレンディ地表全域にマジックシールドを展開。地表にふりかかるプラズマを遮断します」
「ペレンディ全域にファイアシールドを展開。高熱を遮断します」
神々に祈りを捧げる副長たち。惑星全土が光に包まれる。
「機関長。準備はどうだ」
「太陽炉、準備OKだ!」
艦長は神々に祈りを捧げた。副長たちも続く。
「プルトニの御名において紅炎砲、使用承認」
「プレンデの御名において紅炎砲、使用承認」
「主神ゾイジの御名によって命じる。
艦長の合図とともに長大な砲身から紅炎が放たれる。
二門から放たれた紅炎は螺旋を描き、絡まるように宇宙戦艦めがけて飛翔した。
「巨大な熱源を感知しました! 炎? 違う、質量です! バリア、無効化されます! 3万度以上、数十億トンの巨大プラズマが……」
宇宙戦艦の帝国兵が言い終わらぬうちに、紅炎は宇宙戦艦を貫き、爆散した。
溶解した破片は宇宙に飛び散り、また大気圏で燃え尽きる。
残り二隻の宇宙戦艦のクルーに衝撃が走る。
「なんだあの攻撃は! 荷電粒子砲の一種か? バリアでも防げないとは!」
「太陽規模のプロミネンスと同質の炎ですが! あの規模なら惑星に甚大な被害を受けているはずです!」
不可解だった。あれほどの大質量プロミネンスが発生するならば、惑星の海水は瞬く間に蒸発してしまい住人も瞬時に蒸発するだろう。
「馬鹿な。我らのクーゲルブリッツエンジンではなく、真正の小型太陽炉を保有しているのか!」
クーゲルブリッツエンジンは量子レベルのマイクロブラックホールから事象の地表線を形成し生じるエネルギーを取り出す。50ミリに満たないブラックホールでも寿命は数万年持続するのだ。
「そうとしか考えられません! 惑星ベレンディのあの島は宇宙船であると断定します!」
「偽装か! しかしプロミネンスを地表で放ったとして、どうして無傷なのだ。魔法か何かとでもいうのか」
超高温が発生しても惑星は何事もなく、不可解な島では帝国兵が戦闘中だ。
「連射はできまい! 今のうちに降下してあの島を制圧せよ! 奪ってしまえばこちらのものだ!」
焦燥感に駆られる宇宙戦艦の艦長たち。自分達があの攻撃の標的になった場合、瞬時に蒸発するだろう。
「おお、降りてくるね~。リスペリア。MP回復してください~」
「わかりました。フィネラ! お願いします!」
「任せて~」
魔砲を構えるフィネラのディーリッド。
「サーチ。敵艦の動力はどこかな~」
『サーチ完了。敵戦艦のリアクター位置を表示します』
フィネラが使ったサーチは探査魔法の一種。敵戦艦をスキャンしてリアクター位置を把握したのだ。
「エックスフレア!」
最大級の火焔魔法を放つディーリッド。太陽の化身ならではの権能を用い、フィネラの魔法を最大限に増幅する。
果たしてエックスフレアは正確に帝国軍宇宙戦艦の装甲を穿ち抜き、リアクターを破壊した。
「これで無力化だね~。予備動力を使えば墜落しないよね。海に降下するしかないでしょー」
二席目の宇宙戦艦も動力を正確無比に撃ち抜かれ、生き残った帝国兵たちは予備動力を使いダメージコントロールに専念するのだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
空中で対峙するライカのドラグアとラーグのアサルトマニューバクローズ。
消し飛んだ帝国宇宙艦をみて呆然としたガーグが吐き捨てる。
「ふざけるな! こんな攻撃が許されてたまるか!」
「サイボーグのくせに感情のコントロールができないんだな」
「ぬかせ。お前たち、ここまでの文明を誇っていながら、この惑星に引きこもっていたというのか!」
「そうだぞ。地球の残滓にしがみついているお前たちと違ってな」
今やライカはペレンディの住人であることが誇らしかった。
「何なのだ、この惑星は……」
「その認識が誤っている。ここは惑星なんかじゃないさ」
ライカが不敵な笑みをこぼす。
「なんだと!」
「地球の人類が抱いた夢想。――Isekaiペレンディだよ。冥土の土産に覚えておけ」
「Isekaiだと! 古代人の夢想ではないか!」
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できるそうだ。このIsekaiはその結実。圧倒的な科学力をもってIsekaiを実現したんだ。別に長生きする必要もない。ドラゴンやベヒーモスなどのモンスターがいて、人間やエルフたちが冒険者になって血湧き肉躍る冒険を繰り広げる。それだけのために全リソースを注いだんだ」
「酔狂としかいいようがない! ムダの極み!」
「効率を追求してサイボーグになったお前たちにいわれたくないね。ムダを極めた俺の機体、倒してみろよ」
ライカが騎士らしく、敵の敵愾心を煽る。
「いわせておけば!」
斬りかかってくるアサルトマニューバクローズをプラズマブレードで受け止めるライカ。
「なんと!」
「俺は接近戦のほうが得意でね。――金属のプラズマを超高圧、超高温で凝縮したプラズマブレード。実体剣と変わらず受けることも可能さ」
「プラズマを固体にまで凝縮する? ウォームデンスマターを再現したのか!」
「そういうことだ」
返す刃でラーグのアサルトマニューバクローズを切り伏せるドラグア。
上半身を両断され、海面へ墜落する。
「サイボーグが死ねるか俺にはわからん。意識があるならそこで見ていろ」
ドラグアは飛翔する。
最後の宇宙艦を撃破するために。
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