冒険者たちが搭乗する量産型精霊機装

 クラフ島の防空体制は相当強固なものだったが、宇宙帝国軍は物量にものを言わせて攻勢を仕掛けてくる。


回転自動装填式ロータリーオートヘビィボウガンの弾を交換しろ!」


 ドワーフが叫ぶ。撃っても撃ってもきりがない。馬車の荷台に載せているロータリーオートボウガンは休む暇がないほど砲弾を撃ち続けている。

 魔力で動く回転式砲身。いわゆるガトリングガンだがオートボウガンと呼称されている。


「対空ミサイルはまだあるぞい」


 大量のミサイルをドワーフたちが運んでいる。


「ダメだ。魔法と対空ミサイルの組み合わせも、リロードタイミングと物量で押される」


 歯噛みするドワーフたち。四脚型無人戦闘車両を着陸させたくはなかったが、数に押された。


「ダメじゃ。本体の魔神どもがくる!」


 その時、フィネラが駆るディーリットが、クラフ島上空で宇宙帝国の降下部隊の前に立ちはだかった。


「直径四キロ。面積で十二・五平方キロメートルしかない降下地点に大軍が押し寄せるとなると――密集しちゃうよね~」


 ディーリットの両翼が煌めく。


『行きますよフィネラ』

「この瞬間を待っていたんだからね! ハイダーフレア!」


 火焔系最大級の魔法の一つ。ハイダーフレアを放つフィネラ。

 超高温のフレアの威力をそのままに、持続魔法・・・・として継続ダメージを与える恐るべき魔法である。ハイダーフレアとは地球における太陽の現象。フレアが長時間続く増光現象が由来である。

 複合精霊ディーリットが宿った精霊機装では効果が数十倍になり、地表での使用は厳禁だ。


 二本の紅蓮が帯状となって蛇のようにぐるぐると回り、巻き込まれた帝国兵のアサルトマニューバクローズは溶解して海面に墜落していく。


「あのプラズマ帯を避けろ! 巻き込まれると死ぬぞ!」


 慌てて散開する帝国兵たちだが、その三分の一をフィネラのハイダーフレアによって喪失した。

 灼熱の帯を避けるように外周からクラフ島に上陸するアサルトマニューバクローズ部隊。


「ようやくお出ましか! いくぜ! バーストスラッシュ!」


 躍り出た剣士が搭乗する精霊機装がスキル技を放つ。衝撃波で敵を倒す技だが、威力は精霊機装基準なみに上がっている。

 腕部が吹き飛ばされるアサルトマニューバクローズ。


「魔神にも効くな!」

「いけ! 冒険者たちよ!」


 冒険者ギルドの長が号令を放つと、物陰に潜んでいた冒険者が搭乗する精霊機装が出現する。量産型精霊機装もパーティ単位での運用だ。


 ドワーフが乗る精霊機装は重装甲ながら、馬車牽引式のロータリーオートボウガンよりもさらに大きい対魔神用巨大回転砲身式のボウガンを装備している。


「いっけー!」


 狙撃仕様の精霊機装に搭乗するエルフ族とバルダ族の部隊が、上陸阻止すべく、次々と帝国兵のアサルトマニューバクローズを撃ち落とす。

 クラフ島にようやく乗り込んだ帝国兵も、冒険者パーティによってすぐに撃破された。冒険者パーティとはお互いの弱点を補うもの。一個の部隊として機能していた。

 魔法剣士や魔術師はフライト系の魔法で短時間の飛翔可能になっている。


「私達も攻撃魔法で支援しましょう」


 精霊機装が全員に行き渡るわけではないが、彼らには高威力魔法や榴弾による支援火力も潤沢だ。

 飽和攻撃を仕掛けている帝国兵だが、むしろ防衛網によって瞬く間に数を減らしていった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ライカはエリート兵を倒し、三機を残すのみとなった。

 しかし、この三機はかなり手強いと感じるライカ。


『む。ライカ。敵がお前に話し掛けているぞ。どうせ相容れない連中だ。会話する必要もない』


 ペレンディの住人を生体材料にしようとしている連中だ。確かに会話する必要などない。

 ライカは一瞬考え込んだ。 ジュルドに頼む。


「いや。通訳してみてくれ。名乗りぐらいあげてもいいだろう」

『そうだったな。お前は騎士だ。ベレンディのを守護する者の名を奴らに伝えてこい!』


 会話可能になったメッセージがモニタに表示される。


「宇宙帝国軍の者たちだな。俺の名はライカ。ペレンディを護る騎士だ」

「驚いたな。我らの交信に応答するとは。俺の名はガーグ。宇宙帝国惑星ペレンディ攻略指揮官ラーグだ。貴様、どこまで知っている?」

「地球が壊滅して、お前ら宇宙帝国は生身の人間を材料に他惑星に侵攻し続けていることぐらい、かな。エンターテインメント惑星を見つけて、攻略が容易いと思ったみたいだがそうはいかない」

「そこまで知っているというのか!」


 愕然とする指揮官。ゲーム風異世界の生活を演じているうちに、知識は断絶していると彼らは推測していたからだ。


「貴様らが乗るマニューバクローズの性能もな。俺達のマニューバクローズよりは性能が劣るようだ。撤退するなら今のうちだぞ。あの島に落ちた連中はもう助からん」


 精霊機装エレメンタルマニューバクローズや魔法のことは言及しない。教えてやる義理もない。


「我らにもプライドがあってな。おめおめと撤退するわけにはいかない。宇宙戦艦が降下開始する。お前らこそ早々に降伏せよ」

「降伏したらお前らを活かす生体素材になるだろう? 交渉の余地はない。だからこそ、お前らは宣戦布告も通達もなしに威力偵察して侵攻していた。違うか?」

「もしやと思っていたが、知っていたか。降伏すれば苦しむことはなかっただろうに」

 

 図星を突かれ、黙る指揮官。降伏した場合命や財産を保証するものだ。しかし彼らの目的はペレンディの人間というリソースだ。ライカの言う通り交渉は無意味だった。


「艦隊にはまだまだ精鋭がいるぞ。あと10分もかからん! いくらお前のマニューバクローズが高性能といえど、単機ではな! 」

「宇宙戦艦を大気圏内に突入させたのか。悪手だぞ? もう遅いか」

「なに?」


 ライカの告げた内容がすぐに判明する。

 指揮官ラーグは悲鳴をあげた。

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