宇宙帝国軍VS魔砲要塞

 クラフ島の中心にある、制御室。地球の軍艦における戦闘指揮所の役割を担っている。


「いよいよじゃな」


 中央の三座席にはそれぞれ神官長が提督服に着替えている。ライカから艦長として任命されて神々から衣装を賜ったとき、数種のデザインを提案されたのだ。

 どれも魅力的だったが、白の提督服はライカの故郷でも伝統あるものといわれて主神ゾイジの神官長が即決した。他二人の長も異論はなかった。


「ペレンディ圏内に敵宇宙艦を確認しました。一キロ級三隻です。魔神のものと思われます」


 エルフの長が技術将校を務めている。いつの間にか眼鏡をかけている。モニタに注視しすぎて視力が悪化した。

 

「機関長。準備はいいか?」

「もちろんだ! 太陽炉エンジン、いつでもOKじゃ!」


 機関長はドワーフの長が務めている。


「敵攻撃はこの世界ペレンディ全域にわたる恐れはありますが降下地点はおそらく海上です。クラフ島で近づき、迎撃します」

「各王国、帝国。それぞれの民にも防衛用の精霊機装は渡しておる。眷属程度なら冒険者で迎撃できる。主力はライカ様にお任せしよう」


 ライカは各神殿関係者から敬称で呼ばれるようになってしまった。


「侵略に備えてクラフ島には様々な防衛兵器を充実させた。必ずや魔神の侵略を阻止しよう」


 艦長の言葉に技術将校も強く首を振る。


「誘導兵器はドワーフ族とバルダ族と獣人が。光学兵器――魔砲はエルフ族とヒドゥンエルフ族の中でも選りすぐりの術者や射手を揃えています。加えて防衛用の精霊機装が百八機と最新素材の防具に身を包んだ冒険者が控えております」

「この島の防衛力をみせつけて、攻略対象とするのじゃな」

「クラフ島の偽装は完璧です。魔神たちが艦だと気付くかどうか。敵はまずこの島の制圧へ乗り込んでくるでしょう。乗り込んでこなければ、精霊機装で各個撃破するだけです」


 艦長は長い髭を撫でながら、指示を出す。


「奴らにとってはこの惑星は未開の文明のはず。ではまず魔法使いによる牽制じゃ。高高度での迎撃は予想外じゃろうて。次に獣人族が囮になってくれる手筈じゃ」


 獣人族は身体能力に優れているが、文明の機器は苦手だ。危険な任務でも訳に立ちたいと申し出たのだ。


「配置についた防衛部隊神官及び魔法使い。マジックバリアを展開しつつ、敵眷属の怪鳥及び鋼獣に対して攻撃を敢行せよ」


 マジックバリアは魔神や眷属が使うレーザー兵器に有効だ。

 怪鳥は宇宙帝国の戦闘機。鋼獣は四脚型戦車のことだ。


「了解しました。神官および魔法使い師団に牽制を指示します」


 技術将校が魔砲によって指示をだす。配備された魔術師たちと獣人たちの脳内に技術将校の号令が轟く。

 宇宙帝国艦隊迎撃作戦が始まるのだ。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 宇宙戦艦三隻がペレンディの高度三万キロ以上の位置にある静止軌道上にいる。惑星ペレンディと同じ速度周回しているのだ。

 地表に落ちて資源の損失があるといけないので、巨大艦は海に着陸する予定だ。

 上空で無人兵器部隊を投下する。無人戦闘機が制空権を支配した後、四脚型戦闘車両を降下させる。最後に制圧用のマニューバクローズを投入して敵拠点を制圧するのだ。


「艦長! 敵攻撃により、無人戦闘機が迎撃されています! おそらく小口径のプラズマ弾かと」


 サイボーグ兵がサイボーグ艦長に報告する。


「なんだと。映像をだせ」

「は!」


 信じられないものをみた。高速に動く小さな島から、杖を振るっているローブを着た人間がプラズマ弾を発射しているのだ。


「ライトニングボルト!」

「サンダー!」

「ファイアボルト!」


 得意な属性の魔法で無人戦闘機を攻撃しているのだが、宇宙帝国軍は知る由もない。


「魔法だと? そんな風に見せかけたただの光学兵器ではないか! マニューバクローズ部隊を投入して蹴散らせ。目標はあの小さな島だ。まずはあの場所を橋頭堡にしてやろう」


 宇宙帝国軍の惑星制圧用マニューバクローズが宇宙戦艦から出撃してクラフ島上陸を目指す。


「おい! 見ろよ! 馬が荷台を引いているぞ!」

「なんて原始的なんだ。馬なんて資料でしか見たことがないぞ。運転手は獣みたいな耳をつけている。不合理な人体構造だな。アクセサリ……ではないようだ。本当に耳が四つある」


 馬の御者は獣人族の少女だった。上空のマニューバクローズを睨み付けている。

 マニューバクローズのパイロットたちが、その原始的な生活と過去の地球を連想させる馬に驚愕する。


「あの馬車を見せしめに攻撃させろ。恐れた住民が降伏するかもしれん」


 無人戦闘機は連射式のガウスランチャーを展開して地表に向けて発射した。宇宙空間戦闘用のコイルガン方式の小口径実弾兵器だ。

 原住民がバリアのようなレーザー防御を行っているので実弾兵器で様子をみる。

 馬は荷台を引きながらも砲弾を高速で回避していく。


「いくよ! ペレンディのウォーホースの力、あいつらに見せてやりな!」

「ヒヒーン!」


 ペレンディのウォーホースはオウガやトロル、ドラゴンとの戦闘も想定されている。この惑星の人間と同じように地球の馬とは別種の代物に真価していた。

 荷台を牽引しながらも時速百二十キロは優に出ているだろう。回避行動を取りながら、進む馬車。ウォーホースにとっては無詠唱の魔法よりも遅い弾丸だ。


「やけに早いぞあの馬車!」

「撃ち続けろ! 馬一頭殺せなくてどうする!」


 ガウスライフル砲弾が雨のように降り注ぐなか、少女もウォーホースも直撃を受ける。少女のベヒーモス製の皮鎧もウォーホースのタングステン製馬鎧も頑丈だった。


「痛い!」

「ヒヒーン!」


 被弾して戦意を高めるウォーホース。


「ここまでこればいいよね?」

「十分です。移動用魔砲の出番ですね」


 荷台にいる鋼鉄製の大砲を構えたヒドゥンエルフの青年が微笑んだ。


「雷撃魔砲極限強化――ブラッグピーク対策も万全です。発射!」


 鋼鉄製の大砲に偽装した雷撃強化魔砲が放たれた。

 宇宙帝国のアサルトマニューバクローズに直撃して、右腕部が吹き飛んでいる。


「は? 大砲で?」


 帝国兵に動揺が走る。鋼鉄製の大筒から発射されるような威力ではない。


「見た目に騙されるな! 大砲なんかじゃない! 高威力の荷電粒子砲だぞ!」

「どうなってんだ、この惑星は!」


 島のあちこちから大砲らしくものが出てきては、無人機を大砲で撃墜していく。いまだに揚陸できた四脚型戦闘車両は皆無だった。

 上空で待機しているマニューバクローズ部隊も混乱のさなかにあった。

 

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