サンドボックス要素もある

クラフ島の出現によって世界中に激震が走る。

各王国や種族、神殿勢力が一人でも多く送り込もうと画策しているが、所有者が神々によって決定しており、所有者の仲間が各種族を代表している。

 冒険者組合を通じて適性試験を受けて合格する。そこからの絞り込みだ。


 エルフ族を厳選するために魔術合戦を行うことになった。

 ドワーフ族は製造技術を極めるために製造物博覧会を開くことになった。

 バルダ族は民主的に話し合いで得意分野からそれぞれ推薦制ということになった。

 各宗派の教会勢力は神官長たちが最後の数人になるまで推薦を受ける『根比べの儀』を行うことになった。


 そんな激動するペレンディをよそに、ライカたちは知人や仲の良い冒険者パーティを呼び、ドラグアの修復及び精霊機装の生産に入っていた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ライカはリスペリアを連れてクラフ島の移住者たちを視察していた。

 海面から浮き出たクラフ島は、自在に地形を生み出すことができた。


「これではクラフトというよりサンドボックス要素だな」


 完成しつつあるクラフ島の感想を漏らすライカ。

 真円状の約4キロもある島である。面積約12・5平方キロメートルはある。なんでも配置できたので、移住者と相談しながら地形を配置している。


「サンドボックス要素? どういう意味~?」

「コンピュータ室にあるから実際に触ってみるといい。アーカイブにあるはずだ」

「うんー!」


 新しい知識が増えることに喜びを覚えるフィネラはさっそく記録にある古いサンドボックス系のゲームを探し出していた。

 艦建造当時の最新のゲームはない。この惑星そのものが第二の人生、斬新なゲームだったからだ。


「今日は視察日ですよ。行きましょうライカ」


 リスペリアに声をかけられ、クラフ島艦内の視察に回るライカ。

 まずクラフ島内にある巨大農場プラントにいるバルダ族。バムンたちの村一同や友好的な同族の村ごと移住している。バルダ族は小悪党やこそ泥が多いとはいわれるが根は善良なものが多い。


「バムン。どうだ。その……砲弾の栽培は」


 ライカたちはバルダ族が管理している農場の視察にきた。


「九十ミリ砲弾は直接栽培できるから楽だねー。他は一手間加工する必要があるね」

「そうだろうな」


 簡単に砲弾が栽培できるとは思えなかったライカだが、その予想はあっさりと裏切られた。


「大型対空ミサイルを作ったよ。超大型砲弾とうもろこしとジェットキラービーを付け加えた誘導ミサイルだね」

「ジェットキラービーの養蜂は順調ですよ。頭部はそのまま誘導装置に使えます。お尻から火を噴く機械蜂は厄介なので、他の土地での養蜂はまだ厳しいかな」

「クラフ島防衛用の対艦ミサイルはアイアンウッド系の巨木を使うのですが生育が早いので助かります。火薬はサクヤクミドリムシを使います」


 サクヤクミドリムシは地球のミドリムシと違い、灰色の巨大ミドリムシだ。可燃性で誘爆しやすい。冒険者でも手榴弾代わりとしって愛好家が多かった代物だ。

 老若男女のバルダ族が一丸となって樹木や虫と組み合わせて砲弾を育成していた。


 コンピュータ室にいくと、エルフたちがモニタとにらめっこしていた。

 紫肌のヒドゥンエルフまでいる。彼らは滅多に人里に現れない隠者のような生活を送っているエルフだが、神々の知識が与えられる機会を逃すはずもなかった。


「サンドボックス把握したよ~。この島表面そのものみたいなゲームだね~」

「それは何よりだ。知識の吸収はどうかな」

「それがね~。関数、微分積分、線形代数。統計学…… 使えるよ~! いにしえの知識、使える~!」


 フィネラは興奮して伝えてきた。

 エルフの長老が、夢中になってプログラムを学んでいる。


「三次元処理には幾何学が使えますねえ。幾何学に王道なし。魔術の基礎は数学という先達の教えはまことに正しかったのだよ」


 何をやっているか不安になるライカだが、次は礼拝堂に行くことにした。三柱の神官長が住み着いている。


「いろいろあったんだろ?」


 小声で確認するライカ。


「各神殿の幹部級数割が審査に落ちたので大混乱だったようです」

「派閥政争か」

「はい。神々は見ておられる証拠ですね。厳格で公平な審査です」


 リスペリアは内心安堵していた。クラフ島を派閥争いに使われたくはなかったからだ。


「なあ。各神々の本殿を放置してもいいのか」

「ここが本殿になったそうです」


 思う所があるのか無表情なリスペリアが、ぽつりと口にした。


「そうか……」


 衣食住はペレンディ内でも最高峰の品質を誇っている。しかも神々から直接授かった島だ。

 クラフ島に遷都したいといってきた王や、冒険者組合も本部を置きたいといってきたがすべてライカの権限で却下した。王侯貴族や帝国も、神の命により島を預かった所有者には逆らえないが、神殿は仕方ないと諦めた。国を超えた組織だからだ。


「完成した機体に、精霊を込める大切な役割ですから。長たちも気合いが入っていますよ」

「ノーム、ウンディーネ、サラマンダー、シルフの地水火風だな」

「複合精霊の場合は契約者の持ち込みですね。精霊騎士の役割はますます重大なものになります」

「大事だ」


 ライカは苦笑する。ジュルドはリスペリアによって精霊機装ドラグアのOSになる予定だ。


「次は市街地ですね」

「巨大艦なのに都市があるというのは不思議な感じだな」

「島ですよ」


 隠しても仕方ないが、対外的には空飛ぶ島、移住者には宇宙船だと説明している。


「いけね。浮遊島だったな」


 開放されている巨大区画は市場になっている。

 冒険者組合の臨時施設もこの場所にあった。

 この場所には各種族のほかに獣耳の獣人もいる。


 屋台で二人分のホットドッグとオレンジジュースを購入して、食べ歩きするライカとリスペリア。


「ホットドッグが普通にあるっておかしいよな。美味しいけどさ」

「パンもこんがり焼けて美味しいですね」


 パンも白米もピザもラーメンもある異世界はやはりどこかおかしいと改めて実感する。前世ではファンタジーゲームにも出てくるので馴れすぎたせいかもしれない。


「ライカが教えてくれた料理がデータベースにあったそうですよ。我が長がヴェレ族に教えている最中です」

「それは朗報だな!」


 ヴェレ族に頼んで屋台焼きそばやたこ焼きができないか思案中のライカだった。

 この世界の野菜や果物は彼がいた時代の店に並んでいるもの並み、つまりA等級やB等級に匹敵する水準を誇っている。データさえあれば再現は可能だろう。


「朗報ばかりではありませんよ。神々の啓示では宇宙帝国の侵攻まであと三週間程度しかありません」

「みんなが頑張ってくれているからな。ある程度の数は揃うだろう。ドバたちのところへ行こう」


 最期はドワーフたちが率いる工廠だ。人間やバルダ族、エルフ族など各種族の職人を受け入れている。


「ドラグアの修復は順調のようだな」


 ドバとその師匠たちがドラグアの修復を行っている。

 

「実にやりがいがあるのぅ。ドラクアは運動性能も高く、近接寄りだが中距離までの射撃も担える万能型じゃ」


 ドバの師匠がご満悦だ。

 驚いたことにドラグアは以前とは異なる外観になったものの、新たな外装をまとっていた。

 どことなくドラゴンらしくもあり、機械でもある。四枚の純白の羽根が際立っている。そんな人間型兵器となっていた。


「ドラグアのウィング型スラスターは四基。エルダーグリフィンの羽根を用いておる。空中機動も万全じゃ」


 ドバが詳細を説明してくれた。隣には彼の師匠がいる。


「顔面の修復はバイザーで覆っているがキングクラーケンの瞳を使っておる。スキャン性能も高いぞ」

「装甲は蛇亀アスピドケロンとレッサードラゴンのなかでは最も硬いブラックドラゴンの鱗を使って防御力を高めた。間接部はリヴァイアサンの筋肉を使っている。魔神を殴り倒せるやもしれんな」

「ドラゴンハートリアクターで電熱兵器も光学兵器も余裕よな。主砲の威力を楽しみにしておれ」


 最新の知識をあっさりと受け入れているドワーフたち。ドラグアはライフル状の武器を備えていた。


「他の新造機体もあるようだな」

「フィネラ用の魔力ブースト型。魔砲型ともいうべき機体が別格じゃな。次にリスペリア用のリペアラー型。この二機種は飛行機能が備わっておる。バムン用の狙撃型。俺用の重装甲砲撃型だな。彼らをベースにより簡易な量産マスプロダクションモデルの着手を開始している」

「私の機体にも飛行能力が? 嬉しいです。ライカとフィネラの後方支援ですね」

「そうじゃ。どうしても空戦は機動力が突出している二機が孤立しやすく、補給も難しい。リスペリア殿の役割は重要じゃぞ。それに見合った性能は備えておるから安心せい」

「ありがとうございます長老」

「フィネラの機体にはディーリットが。リスペリアの機体には月光と美の精霊ザナを宿すことにしている」

「フィネラ殿の範囲攻撃は壮観なものになりそうじゃのう」

「ザナが私の機体に? 光栄です」


 ザナはライカと契約している月光の化身。光と生命を司る神聖な複合精霊だ。

 

「俺の機体にはノームが、バムンの機体にはシルフが宿る予定だ」

「複合精霊ともっと契約していればよかったな」

「お前さんが三人もの複合精霊と契約していることのほうが驚きじゃ!」


 村長の言葉にバムンがうんうんと首を振る。複合精霊はより高度な意識を持ち、気難しいのだ。


「別にまだいるんだけど、なんというのか精霊入魂の儀式? あれがいやだという精霊も多くて」

「機械の肉体になるんじゃ。自由な精霊にとっては苦痛じゃろうな」

「そうですね。ライカが召喚してくれた精霊は協力的なので楽です。ジュルドやディーリットに抵抗されたら為す術もありません」

「ありがたいことだ」


 ジュルドも演技がかった悪役を演じたが、神々の命令ならうなずける。いつもは気さくな、ライカにとっても兄貴分のような精霊なのだ。




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