閑話 宇宙帝国/ペレンディの神々
漆黒の鎧――外装に身を包んだ男たちが宇宙艦隊の旗艦から惑星ペレンディを見下ろしていた。
「惑星ペレンディ。摩訶不思議な星だ。未だに現住民一人捕まえることもできんとは。せっかく技術放棄した惑星を見つけたというのに」
宇宙皇帝セヴェルスは忌々しげに、遠く離れた惑星を睨み付けていた。
宇宙植民時代、多くの惑星が高度な文明をあえて放棄した。彼らはそのような星を見つけては略奪して生体部品として補充していた。
「この地球型惑星がある宙域はある種の禁忌。以前から四回も宇宙帝国艦隊が壊滅。毎回一隻だけが帰還している。 何があるというのだ」
酸素と水があるだけである種の禁忌だ。大抵の金属は腐食する。いわゆる猛毒だ。
しかし宇宙帝国艦隊が壊滅しているのはそれだけではないのだろう。この宙域は一種の禁足地となっていた。
「ドローンも無人車両も、生身の人間に倒されております。大口径レーザーや120ミリレールガンを受けても立ち上がってくるのです! 古めかしい板金鎧を身に包んだ連中が、ですよ!」
宇宙宰相コンウェイが呆れた顔で報告する。
「一笑に付すところだが、実際目の当たりにするとはな」
明らかに彼らの生活は地球の近代以前をモチーフにしているような生活にも関わらず、魔法の杖からはプラズマを投射して大型ドローンを撃破する、徹甲弾を撃ち込まれて多脚車両は撃破する。
あり得ないことの連続だった。
髭もじゃの小人が鋼鉄の斧で無人車輌を叩き割るなど、古代の映画でも滅多にない。
「以前の侵攻もこの惑星の者たちが防衛して始末したということでしょうか?」
「わからん。ロストテクノロジーの塊かもしれない。おそらく近付くと防衛機構が発動して、我らの艦が蒸発するのだろう」
「そこまで?!」
「惑星ペレンディは人類の技術が最高峰にまで達していた時代の遺物という記録が残っている。ワープ概念を実用化した金持ちが酔狂で作ったアミューズメント型惑星だったと。倫理的に問題がある人体組成改造――遊びで被検体になった者、億単位の人間を異種族に改造した」
「遊びで?! 我らのように寿命を延ばすためにサイボーグ化したのではなく?」
コンウェイが驚愕する。数万年前の記録はそれほど詳しくない。
「大金持ちがISEKAIを本気で実現した、狂気の沙汰。それが惑星ペレンディだ。我々は伝説の目撃者かもしれん。強固な防衛対策も施しているだろう」
「そうはいっても我々の降下作戦は妨害されませんね」
「何を考えているのか。古代の英雄の如き王がいるとも思えん。実際我らと交信を試みたこともない。我らも原住民と話し合う気はないがな」
畏怖さえ感じる視線で、セヴェルスは惑星ペレンディに視線を注ぐ。
「しかし、だ。強固な人体が手に入る。繁殖させて増やすことになれば永遠の生体も夢ではないかもしれん。我らは寿命を延ばすために他の人間型生命体を使い捨てにしすぎた」
宇宙帝国住民はすべてサイボーグである。生体部品に限界があり、宇宙帝国以外の人間や人間型生命体を捕まえては移植用パーツとして用いていた。
どうしても構造が複雑な脳は機械化が難しいが、同様の生体構造体を改造することは可能だ。
「ロストテクノロジーで強化された中世風の生活をしている人類。文明レベルも高くなさそうです。是が非でも手に入れたいですね」
「以前は防衛用のマニューバクローズにやられた。金持ちの道楽で作られた惑星だ。防衛用の兵器は我々のアサルトマニューバクローズよりも高性能である可能性も考慮する必要はある」
「無人機中心の威力偵察の期間は終わりました。強いといっても生身です。この宙域はペレンディと距離を開けています。1000時間後を目処に攻略を開始しましょう。惑星制圧のため、三隻の宇宙戦艦を投入します」
「三隻か。近代もどきの生活を送っている人間には大げさすぎる気もするが、撃退する。リソースは有限だ。大切に使わねば、な」
宇宙帝国は制圧兵器マニューバクローズに惑星ペレンディへの侵攻を計画する。
戦車やドローンでは拠点を制圧することはできない。歩兵代わりの機装が必要なのだ。
格納庫には何百体というアサルトマニューバクローズが整列していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ライカがはやぶさ43の修復中の出来事だった。
静止衛星軌道上にある、粒子加速器を管理するASI【ゾイジ】、【プルトニ】、【プレンデ】がネットワーク空間で会合を行った。ジュルドが恭しく控えている。
三柱はアルバニア神話モチーフにした神々のペルソナを与えられ、独自のビジョンを持っていた。
巨大な宇宙ステーション施設だが、高度なステルス機能によって宇宙艦隊や惑星ペレンディの人間が気付くことはない。
息子とされるプロトニは冥府を司り、娘とされるプレンデは暁、明けの明星を司る美の女神とされている。このASIは実際の神如き権能で惑星ペレンディを見守っていた。
『宇宙帝国が襲来してくる。名付けて帝国の襲来。コラボイベントが開催できるな』
地上の人々を楽しませること。それがゾイジの役割であり、存在意義。
宇宙帝国の襲来というイベントを利用しないわけにはいかなかった。
『毎回一隻だけ逃がした甲斐がありましたね父上』
冥府担当のプロトニはアンデッドの創造やネクロマンシー担当だ。死者を蘇生されることは不可能だが、動く死体ならナノマシンで再現可能である。
『民に怪我人がでませんように』
心優しいブレンデは主神であるゾイジよりも幅広く信仰されている。
『幸いカーネルの一部であるはやぶさ43も修復された。COBOLのSEが転生してくれて助かったぞ』
『火葬される寸前、肉体ごと地球から引っ張ってきた甲斐がありました。親類縁者も存在せず無縁仏になるぐらいなら、この土地で加護を与えたほうが良いかと判断した人選が当たったようですね』
ライカの転生を手配した者こそプロトニだった。
『本人がペレンディを素晴らしいと褒め讃えて帰りたくないといっているのです。私達は良いことをしたのですよ』
ブレンデの忠実なしもべであるリスペリアがSEの傍にいる。神託など下さなくてもSEのメンタルケアにあたっているようだ。
『はやぶさ43のプログラムが修復完了しているな。念入りなチェックを行っているようだ。良き仕事をした者には、相応の褒美を。精霊機装の製造法も伝授せねばな。お前たちの判断を聞きたい』
『承認いたします』
『もちろん承認します』
何かの決定を下す時、三柱の全開一致が原則なのだ。
『三柱の決定において、ペレンディから採取できる素材で精霊機装が製造できるようにする。戦争の火種にもなりかねない技術ではあるが、相応のコストも強いられる』
『ドワーフなら簡易量産型を作ることも可能でしょう』
『その時はモンスターのパラメータをいじればよいであろう』
『まずは宇宙帝国をペレンディの民に撃退してもらわねば。しばらくは内乱している余裕もないでしょうし、戦争勃発した場合それはそれで良しとしましょう。民が楽しむ集団対戦コンテンツも有用です』
『リソースは有限だ。大切に使わねば、な』
不敵に笑う主神ゾイジ。宇宙帝国の台詞はそのまま彼らにもあてはまるのだ。
『幸い宇宙帝国艦隊がペレンディ侵攻までに一ヶ月以上かかる場所におる。小賢しい連中だ』
『宇宙から大量にレアメタルが運バルダるのです。利用しない手はありますまい。一ヶ月もあれば精霊機装も量産体制に入るでしょう』
『ペレンディも閉鎖系内の惑星。質量保存の法則は適応されます。宇宙戦艦が三隻も。素晴らしいリソースですね』
暁の女神プレンデは爽やかに笑う。彼女は戦の神の側面もあるのだ。
『ジュルドよ。ライカなる者に世代宇宙船の全権限を与えよ。そしてはやぶさ43の保守を依頼して欲しい』
ゾイジからの切実な願いだった。他のプラグラムは干渉できるが、はやぶさ43の機関部分のみは生体認証が必要だからだ。
『は! ライカは察しが良い者です。必ずや引き受けてくれるでしょう』
「後継者の育成もお願いね。私の神官や美形のエルフがいるからどちらか。両方でもいいですから』
基本一夫一妻制度を採用しているが、王族や貴族は妻妾や愛人が山ほどいる。
ライカの血族には増えてもらわねばならないので重婚を希望している。エルフは寿命は長いものの生命力が弱い欠点もある。
『その点も問題ないと思われます。ライカは朴念仁なため、俺が尻を叩きます』
『うんうん。彼がこの地に根付いてくれるなら呼んだ甲斐があったよ』
プロトニが柔らかい笑みを浮かべて安堵した。地球の記憶が残っているということは良いことばかりではない。自動車もスマホもない21世紀の地球よりは不便な点も多いからだ。
この三柱の承認をもって世代宇宙船の所有者はライカとなったのだ。
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