クラフ島

ジュルドが艦内を案内する。物珍しそうにきょきょろと周囲を見回すバムン。


『この地下神殿は生活環境が整った世代宇宙船のうちの一隻なのだよ。灯台といわれていたものは惑星上で運用するための艦橋だ』

「やっぱりそうだったか。どうりで艦橋らしいと思ったわけだ」


 ライカの予想はあたっていたが、思わぬところで抗議がくる。


「ライカ~。今後そういう疑問はみんなで共有しようね?」

「そうだね。ボクたちも知りたい!」


 知識を追求する魔術師のフィネラと好奇心旺盛なバルダ族であるバムンからの抗議だった。


「わかったよ」


 彼らはエスカレーターに乗り、下に降りる。中層らしい。


『着いたな。ここだ』


 広大な空間には、農地が広がっていた。水田から樹木まで、あらゆるものが揃っている。


「これは!」

『農業プラント区画だ。砲弾も取れるし、食物の品種改良も行える。必要な助言は精霊たちがいる。この農業区画はバルダ族に預けようと思っている。異論はあるか。バムン』

「ありません! このような農地の楽園、ぼくたちでも取り合いになりそう!」


 神の祝福を受けた農地。バルダ族が理想とする楽園といっても差し支えないだろう。


『まずはバルダ族の話をしたが、各種族の長に言い聞かせて欲しい。神々は一種族の独占は許さないと。適性がある者は他の種族の者も取り入れるように』

「さすがは神々。一つの種が独占してしまえばそれだけで戦乱の種になります」


 リスペリアは深く首肯する。


「適性問題は重要だな」

『受け入れる人数には限りがあるからな。それは各種族の長とともに、我ら精霊神によるチェックが必要だろう。日頃の行いも重要ということだな。今この場にいる者は全員合格だ』

「良かった~」

「神々に授けられるだけの適性はあるということじゃな」


 フィネラとドバが胸をなでおろす。


「俺はともかく、人間が厄介だな」

『その通り。神殿に仕えるものまで政争に明け暮れているのだ。心清き者判定で弾かれた聖職者や王族はいるだろうな』

「哀しいことですが、事実ですね」

『理解して貰えたようだな。次にいくぞ』


 別のフロアへ案内するゾイジ。


『技術検証をしていた区画だな。コンピュータでは対話型でお前たちの知りたいことも確認できるだろう。ただしペレンディを大きく変えるような知識は制限されるがな。この場所はエルフ族に任せよう』

「やったー!」


 フィネラが飛び上がって喜んでいる。


「PCが並んでいる…… キーボードもあるんだな」

『画面キーボードや架空キーボードはかえって不便なのだよ。あれは物理キーボードの代替にしからならぬ』

「よくわかるよ」

「これでCOBOLが学習できる~」

「やめておいたほうがいいぞ……」

「なんでさ!」


 COBOLを学ぼうとするフィネラを慌てて止めるライカであった。


「もっと未来がある言語を覚えた方がいい。どうせなら最新の」

「私とライカの子供が保守しないと~」

「さらっと割りこまないでくださいね」

「おっとフィネラ。そこまでだ。それ以上は修羅場になる」


 キャットファイトを阻止するドバ。ドワーフ族は頼もしいと心の底から感謝するライカである。

 ジュルドは別の部屋に連れて行く。


『ここは礼拝堂。かつては違う宗教だったがね。ちょうど三部屋ある。ペレンディの神々との交信所として使えるようにしてある。リスペリア。神殿関係者に預けようと思うが、政争は許さぬとだけいっておけ。ダメ元でな』


 にやりと笑うジュルド。同じ宗派でも対立や政治闘争は存在する。人間の権力争いなど防げはしないだろうが、釘だけ先に刺しておく。対応は神々がするのだろう。


「重い言葉ですね。はい。必ずや伝えます」


 若き、しかもハーフエルフの身。リスペリアには神殿勢力内の発言力はあまりない。


『今いるメンバーと保有している素材だけで多少の精霊機装を生産や修復することは可能な数を保有している。しかし、それだけでは数に対抗できない』


 一同が頷く。魔神の眷属だけでも手を灼いているのだ。


『この巨大な直径8キロメートルの円盤形巨大宇宙船を海上に浮上させる。この場所は巨大な島となり、人々移住できるようにする』

「浮くの?! なんていう島になるんだろう」

『暫定的にクラフ島だな』


 何の捻りもないネーミングにライカがジト目でジュルドを見る。

 気にもせず続けるジュルド。


「そのまんまだな。宇宙船だと、収容人数が気になるな」

『キャパは気にするな。百万人単位は可能だからな。ただ最初は新しいものを受け入れる余地がある者に限定したい。数百人ずつがよかろう』

「広すぎですよ! そうですね。この島の価値は計り知れない。それだけで戦が起きるような代物です」

『クラフ島は所有者をライカとする。承認せよリスペリア』

「おい。いいのかそこまで話を進めて!」


 突然のジュルドの発言に、慌てるライカだったが他のメンバーはうんうんと頷く。


「さっさとやっちゃってー!」


 フィネラが急かし、リスペリアが儀式を始める。


「天空神【ゾイジ】冥府神【プルトニ】愛の女神【プレンデ】の三柱の意志により、このクラフ島の所有者をライカとする」

『よし。これで手続きは終了だ。この世界の人々は一丸となって技術を学んで宇宙帝国に対抗するのだ!』


 剣と魔法の世界の住人が、宇宙帝国に立ち向かうための壮大な計画が始まったのだ。

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