モンスター素材で巨大メカをクラフト
『このドラグアは好きにしていい。分解して構造を確認しても構わない。ドワーフ族が適任だろう』
「任せてくれ。クラフトスキルもあるし、種族をあげての大役となる。王にも進言しよう」
ドバはもう精霊機装の構造が気になって仕方がないようだ。
「素材になるモンスターを狩りにいく必要があるか」
『必要な素材はお前たちのアイテムボックスにあらかた入っている』
「無限収納は便利だよな。この原理を教えてくれ。四次元ボックスか」
『正確には時間軸がないユークリッド計量空間の四次元だな』
「わからん!」
『余剰次元に干渉することはできない。品物をデータ化して封印しているだけのことよ』
「ライカ。ジュルド。今度、余剰次元について教えてね~」
「説明する自信がないぞ……」
かろうじて聞き覚えがある程度のライカは首を横に振る。
『そうだな。簡単に説明はできない。また時間があるときに教えてやろう。次に精霊機装を製造するための具体的な品物を話そう。精霊機装の部品になる素材の具体的なものを挙げる』
「頼む」
こんな巨大メカを本当にモンスターの素材でクラフトすることが可能なのか。
ライカにも不思議だった。
『まずは精霊機装を動かすための頭脳。最高級の精霊結晶だな。これは三次元VLSI設計を実現する球体半導体だ』
「精霊の谷で採れるあの石、高性能半導体なのかよ」
シリコンバレーならぬ精霊の谷とは思わなかったライカ。精霊の谷から取れる精霊結晶は召喚媒体や魔力のMPを溜める消耗品に使われる。
最高級の精霊結晶は非常に珍しく、ライカたちも売らずに保管していたのだ。
『次にドラゴンハートだな。高値で取り引きされているが、お前たちもストックはあっただろう。これはドラゴンの動力、核融合炉の一種だ。精霊機装の動力と同じものだ』
「そんなもんで動いているモンスターと戦っていたのか!」
『装甲材も同じく竜のうろこで代用できる。下手な鋼鉄よりも硬いことはお前たちも知っての通りだ。ドラゴンたちが鉱山に住んでいる理由がそれだ。鉱山の重金属を吸収して核融合のエネルギーでナノマシンを媒介に溶液合成法を用いて合金を成長させる。もはや金属生命体といっても過言ではない』
「聞いているだけで気が遠くなるな…… ファンタジー世界を再現するために金属生命体まで作り出したのか」
『科学を用いて自然に回帰したのだよ、この世界は』
若干誇らしげに語るジュルド。
「この世界は21世紀の知識がある俺にもわかるような原理なのか」」
魔法としかいいようがない事象の数々だ。
『ナノマシンが
「なんとなくだが理解できる。夢のような世界だ。地球にあった技術の延長上なんだな」
『お前たちのスキルでもナノマシンで干渉でして事象が発生してる。剣技、魔法、クラフトその他諸々すべてだ。そのためにも冒険者のパラメータ管理しているはやぶさ43のエラーを修復することが急務だったのだ』
「クラフトスキルまで。俺の想像以上に大変な事態に陥っていたということか」
『そういうことだ。精霊機装の関節部分やコックピットなどは工房で製作することが可能になったぞ。超高圧生成装置は魔力炉があれば大抵なんとかなる。必要な素材はクラフト系のスキルで提示される。ドラゴンだけではない。巨人やキメラ。高難度のモンスターばかりだ」
その言葉を聞いてフィネラが噴き出す。
「思い出した~。あなた、それで『この素材は売らない方がいいぞ』とか『価値がわからない奴に売るな』って教えてくれていたのね~』
ジュルドはことあるごとに、彼らが手に入れた素材の売買に口を出していた。その真意が明らかになったのだ。
『ま、まあな。お前たちが精霊機装を目指しているから協力していたこともある。二度手間は面倒だろう』
若干照れているジュルド。彼なりの優しさだったようだ。ツンデレなおっさんAIである。
これで材料集めをするためのモンスターハントを行う必要はなさそうだ。
「砲弾などはあるのか? 少なくとも今は大型対物ライフル弾ぐらいしかなさそうだが」
『精霊機装の砲弾やミサイルは新しい種や苗木をバルダ族に渡すつもりだ。彼らのスキルが必要だからな』
「より稀少な砲弾の栽培ができるんだね!」
やはり砲弾を栽培という表現に違和感を覚えるライカだったが、今までも屋台で売られていたことを思い出す。
「精霊機装を動かすためのOSはどうなる?」
『精霊を精霊機装に封印することでインストール可能だ。四大はどこにでもいるが、強力な精霊のほうが性能は向上する。そして精霊機装に封じるためには神々の許可が必要だ。つまりお前たちに必要なものはすべて揃っている』
「なるほど。ではまず俺はドラグア用の精霊と契約する必要があるのか」
『ん? ライカの機体は俺が担当するぞ』
「俺としては助かるが、もう二度と敵対しないでくれよ」
苦笑する。必要性があったとはいえ、ライカもジュルドが立ちはだかった時は軽くショックを受けたのだ。
『仕方ない。あれは必要な儀式だった』
すこしやりすぎたかと反省しているジュルドである。それにディーリットが出てくるとは思ってもいなかった。
「ジュルドがずっとライカの傍にいるということですね。でも……」
悩むリスペリア。精霊神ともいえる格の存在だ。
そんな彼を機械の体に封印してもよいのか、リスペリアも躊躇うほど。
『俺の方がいいと思うぞ。それともリスペリア。お前はライカの相棒にはディーリットのほうがいいのか?』
「いいえ。長年の相棒であり私達と信頼関係もあるジュルドこそがドラグアに相応しい。疑うことはありません」
即答した。リスペリアからしてみればあんな美女精霊がライカの相方になるぐらいなら、ジュルドのほうが絶対に良い。
『そうだろう。長い間一緒に冒険した仲間だからな』
「何か別の思惑を感じるぞい」
ジト目でリスペリアを見上げるドバに、リスペリアが気まずそうに目を逸らした。
「私もジュルドに一票~」
「決まりですね」
『当然だな。俺は精霊としてライカとの付き合いも長い』
「しかし素材が揃ったところで、工房がないな」
『次は加工施設だ。案内しよう。ついてこい』
ジュルドはさらに奥に進み、階段を下っていく。
ライカ一同はジュルドの後をついていき、次に登場する施設に思いを巡らせた。
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