エルフの文献曰く魔王はクソゲー邪竜は無理ゲー

『お前たちの先祖ははやぶさ43を目印にして、地球から空間を跳躍してこの世界にやってきた。超越した科学を用いて、幻想郷を作りだすために。成り立ちこそごっこ遊びに過ぎなかったのだが、状況は一変した。地球が消滅したのだ』

「え? なんで? 世界を創造できるぐらいの技術を持った、まさに神様みたいな人たちでしょう?」

『量子世界のシミュレーションでは無く本物のブラックホールを作り出してな。過ぎたる力を制御できなかったのだ。詳しくは俺達も知らない。生き残った人々は金星や火星、おっと。地球の最寄りにあった星に移り住んだが、それも長くは続かなかった。人類は銀河系と呼ばれる長い旅に散らばった。そのうち、エンターテインメント惑星であるここは忘れ去られたのだよ』

「そんな……」

『悪いことばかりではない。来場客を楽しませる必要もなくなった。俺達、精霊神や四大龍王は辛いワンオペだったが、人間や他種属が滅亡しないよう見守るだけでよくなった』

「辛いワンオペ?」

『一人で行う深夜業務が数千年続いたと覚えておけ』

「ワンオペ、深夜業務…… う、頭が……」


 トラウマを思い出し、頭痛を覚えて頭を抑えるライカ。


「どうしたのライカ! 気を確かにして!」


 リスペリアが治癒魔法をかけてくれるが、こればかりは癒やしようがない。


「大丈夫だ。続けてくれジュルド」

『しかし想定外のことも起こった。我らはこの惑星ペレンディ――世界の住人を楽しませたがために、試練を課しすぎた』

「試練?」

『魔王ディヴ。邪竜クルシェド、邪神ジャル死霊王ルガット。どこからともなく出現しては、倒され、時には復活したであろう。そのたびに新しい魔法の装備や、新しい職業が誕生した。我ら精霊用語でシーズン制または大型アップデートという』

「俺達冒険者は世界の危機が訪れるたびに立ち向かった。――待て。それもすべて仕組まれていたということか! しかも遊び感覚で!」


 息を飲む一同。遊び目的で何度も強大な存在が生まれていたという事実。


「最初は娯楽を提供する目的だった。しかし二万年前あたりか。我々はこの世界の住人が己のルーツさえ忘れていることを察したのだ」

「二十万年前に移住したんだよね? 察するの遅ッ! ボクたちが絶滅したらどうするつもりだったのさ」


 バムンが仰天するぐらいの鈍さだ。


『そこはうまくバランス調整をしたつもりであるぞ。バランス調整はユーザーの要望に応えるものだからな』

「待って~。エルフ族に伝わる文献曰く魔王ディヴはクソゲー。邪竜クルシェドラは無理ゲーと。私達はクソゲーを理不尽、無理ゲーは攻略が極めて困難と意訳しています~。これ絶対褒めてないよね~?」


 ジト目でシュルドを睨み付けるフィネラ。

 ライカの頭痛が激しくなる。バランス調整していないゲームにありがちな難易度だ。


『バランス調整に失敗した例だな。エルフ族には記録が残っていたのか。物持ちがいいな……』


 気まずそうに視線を明後日に向けるジュルド。


「ダメじゃないですか~」

『俺が設定したわけではないぞ!』


 慌てて否定するジュルド。


『話を戻すぞ。本題は二つ。お前たちが精霊機装と同型の魔神と呼ぶ存在とこの世界ペレンディに住む人々の真実だ』

「機械の魔神。神々への扉に通じる守護者だったことを思うと……やはり地球に関係するのか?」

『察しがいいなライカ。地球は消滅したが、ペレンディと同様の惑星は数多くあった。彼らは多くの星を支配した帝国を実現した。彼らの兵器こそがお前たちが魔神と呼ぶものの正体だ。地下神殿の門番は自律行動している同型機ともいえる』

「魔神は伝承によると、一万年前ぐらいにも出現して、たびたび襲撃しているんですよね。精霊機装もそのとき神から贈られたものだと」

『最初の襲撃時も英雄が精霊機装に乗って魔神と眷属を撃退した。魔神とはエルフとは違う方法で寿命を延ばした元人間。あの巨大な姿は精霊機装と同じ一種の搭乗型ゴーレム。中には肉体を機械化させた者たちがいて操縦している。眷属は彼らが用いる無人兵器だ』

「そんな連中に英雄たちが勝てたのか」

『眷属程度ならお前たち冒険者も対抗できているだろう? どうして一般人さえもなかなか死なないと思う?』

「それはそうだが…… 何故だ。冒険者のナノマテリアル以外に世界の秘密があるのか!」

『そうだ』


 ジュルドは重々しく頷いた。


『我々は冒険のハードルを上げすぎた。この大地に住むすべての種族が、とうにオリジナルの人間を超越した進化をしている。ナノマシンに覆われている冒険者でなくても、だ』

「進化?」

『無理矢理命懸けの冒険を生き延びた冒険者が、何百世代、いや千か万か。長きに渡って各種族が強化された。強化された人々に対応して我々も難易度を上げていったが、お前たちは我々の想定を越える成長と、仕様の抜け穴を見つけては乗り越えた』

「バランス調整とやらに失敗していない~?」

「俺なら運営に苦情を言い続ける」

『やめろライカ。以前から思っていたが、お前、我ら精霊の事情に詳しくないか』

「それほどでもない」


 ライカは首を横に振って否定した。ジト目で睨むジュルドである。ライカの発した言葉も彼の知っているネットスラングだったからだ。


『バランスについてはむしろ結果的には成功しているだろう。たとえばだな。バムン、お前の持つボウガンな。それはボウガンではない。本来はライフルというのだ』

「え? これボウガンでしょ?」


 愛用しているボウガンは、モンスターの素材とチタンを組み合わせた頑丈な弩だ。フルオート射撃も可能な優れもの。


『ライフルに使う通常弾。それを撃たれると人は一発で死ぬ』


 そこはライカも不思議に思っていたところだ。この世界の住人は頑丈すぎる。


「え? 一般人相手でも頭に十発は当てないと死なないよね。徹甲弾なら当たり所が悪ければありえるかなとは思うけど」

『徹甲弾など腕にあたるだけで死ぬ恐れもある。あとはだな。お前にはショックだろうが…… 各種弾薬は畑で採取できるものではない。本来なら原理的に無理なのだ』

「なんだって!」


 彼らバルダ族の里では徹甲弾の実や徹甲榴弾の実が特産品だ。

 ライカも徹甲弾が畑から生えることに疑問を抱いていたが解決する。そのように、この惑星が作られていたのだ。とんでもない技術だ。


『対ドラゴンランチャーに使っている徹甲榴弾など、特殊な工場でないと作れないものだ。とうろもろこしに似た植物で採取可能な代物ではない。あとそれを俺に撃つな。投影したホログラフに応じてダメージがくるようになっているから痛いんだぞ』

「そんな…… ボクたちの常識が覆ってしまう!」


 徹甲弾の実は彼らの里にとっては名誉な作物だった。自然の恵みを活かした消耗品を作っていると信じていた。


『ドバよ。鋼鉄もそうだ。斧で切断できるものではないのだ』

「なんじゃと!」


 面倒な時は鋼材は折るか斧で叩き割るドワーフ族だ。鋸などは相当硬いものに限られる。


『お前たちがミスールと呼んでいるものははアルミ合金の一種。この世界の多くのものが本来の手順ではなく、結果だけを直接ダンジョンのモンスターや畑で得るように設計されている』

「我々の生活は何から何まで偽りじゃったんか……」


『このペレンディが創造された当初はそうだったが、今は違う。このシステムは不変となった今、偽りとはいえまい。お前たちにとっての現実をあるがままに受け入れるといい』


 世界の真実を語るジュルド。


『魔神と精霊機装のルーツは同じ。性能からいえば魔神たちはベレンディ創世の時期よりも文明は衰退していると思われる。眷属とお前たちが呼ぶ無人兵器程度なら、冒険者は生身で対抗できることがその証拠だ』

「本当にな。剣と魔法で倒せる代物ではないだろう」

『この世界の住人は俺達が課した試練をすべて乗り越えて、本来のヒトとはかけ離れて超進化した存在になっているからな…… 人々が貪欲にコンテンツを消化した結果だ』


 気まずいのかジュルドの歯切れが悪い。


「やっぱりバランス調整に失敗しているじゃないか!」


 あまりのことに叫んだライカ。ヒトとかけ離れた存在に進化するほどの試練がどれほど過酷だったか想像に難くなかった。


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