世界の真実
『率直に真実を告げてやろう。この世界は偽りの世界だった』
「過去形か?」
『そうだ。VR世界に飽き足らず、本物のゲーム風幻想世界を再現しようとしたエンターテインメント用惑星がこの世界。かつての楽園【地球】からもたらされたもの。しかし彼らは滅んだ。今はこの世界こそが本物だ』
「VRか。ゲーム風幻想世界?」
ライカはシュルドが何を言っているかを理解できる。しかしそれはあまりにも大規模すぎて、彼のいた前世でも夢物語であろう。西暦2025年では絶対に不可能だ。
『お前たちは冒険者組合で冒険者に登録した瞬間から目に見えないナノマシンに覆われる。HPやMPがあるのは配分されている目に見えないナノマシンが作用するナノマテリアルのせいだ』
「ギルドカードに表示されるレベルだな。しかし、いまいち原理がわからん」
ギルドカードも超薄型スマホのようなものなのだろう。
冒険者がギルドカードの連絡先交換をしていればコールという機能を使えば通話も可能。必要な情報はスクロールすれば見ることができる。
『HPが一万もある。ドラゴンブレスの直撃にも耐えるのに、食中毒や虫歯は発生する。HPとは、あくまでシステム上のもの。素粒子を管理している。レベルが上がるとナノマシンが操作するナノマテリアルに強い核力が作用して結合力が増し、強固な目にみえない鎧になる。MPはリソース。いわば精神力を核力や電磁気力に変えて事象に干渉するものだ』
「エルフ族の古代文献で素粒子については読んだことがありますね~。精霊は原子に作用したもの。万物を構成する原子よりもさらに小さな粒が粒子。それによって世界は構成されていると」
素粒子は高校で習う程度には覚えていたライカ。前世な上に死んだ時ですらはっきりと覚えているわけではない。脳内に電子百科事典はないのだから。
『古来より伝わるメートル、キログラムなどは地球の単位だった。彼らは高度な文明を築き、そして滅んだ。残された人間と合成生物学を駆使して作られた人造種族。エルフやダークエルフ、ドワーフ、バルダ、獣人。豚面のオルグや人喰い巨人オウガ、トロルなどもそうだ。元人間もいれば、完全に創造された種族もいる』
「エルフ族が多いのはなんでかなー?」
『エルフ族は地球のゲームでは人気があったからな』
思わず頷いてしまいそうになるライカだったが、ぐっと堪える。今それらしいことを口にしてしまうと質問攻めにあうだろう。
「エルフが人気? 純血種ならそうでしょうね。私は辛かったわ」
ハーフエルフのリスペリアが疑問を持つ。様々な種族は混血が進み、その特性によって
『二十万年も前の話だよリスペリア。エルフとてまったくのオリジナルというわけではない。Y染色体ハプログループI1をもとに尖った耳、特殊な瞳構造、不老細胞を採用して見た目の老化も遅らせ、容姿の成長は十八歳以降で外観の成長を緩やかにして人間の限界寿命125年を1250年にまで引き延ばした。だいたい人間は八十歳、エルフは八百歳ぐらいが寿命だろう」
「太古の神々でも寿命は克服できなかったのですね」
『違う方法はあったがね。エルフの起原は忘れ去られて人間は美貌と長寿命が妬み、エルフは純血種以外を排除しようと試みた。実に悲しいことだ』
「精霊に同情されるなんてね。老化が遅いことはありがたいことですけれど。神に感謝を」
「美は事実ですからね~。私達」
苦笑するリスペリアとフォローしているかどうかよくわからないフィネラ。エルフライクのリスペリアは美しい銀髪をポニーテールで結っている。エルフライクやエルフのなかでも美貌といえる容姿だ。
エルフのフェネラは腰まで流れる金髪と優雅な佇まいで気品を感じさせる、まさにエルフの純血種といった容姿の持ち主だ。
「好き好んでドワーフになる奴がおるとは思えんのじゃが」
「そうそう。バルダもね。背は小さいし。美人だらけともいえないし」
ドワーフ族のドバとバルダ族のバムンが首を捻る。彼らもそれなりの数がいるからだ。
『ドワーフやバルダになりたがる者もそれなりにいたんだよ。ドワーフは技術者向けの工業。バルダはスローライフを送りたがる人生に疲れた者が農業をやるために。ロールプレイの一環でもあったし、生産職に向いていて金銭的には有利になる種族だ』
「いたのか。好き好んでじじぃ姿になる奴が……」
絶句するドバ。若い頃から人間でいうところの壮年姿。彼も総髪に長い顎髭姿だ。
「ロールプレイが何を意味するかはよくわからないけれど、酔狂な人たちだね」
童顔の少年にもみえるバムンが呆れ顔だ。こうみえても彼は三十歳。退屈な畑いじりに嫌気がさして冒険者になったのだ。ドワーフもバルダも寿命は人間の倍程度ある。
『ドワーフ族やバルダ族はいわゆる生産系のクラフトに強い。つまり金銭的余裕があるという特徴だ。もう一つ。女性は人間の子供モチーフだな。エルフと同じで童顔状態が続く。両者ともにそれなりの需要はあったぞ』
「それは…… いえなんでもありません」
触らぬ神に祟り無し。いいかけた言葉を飲み込むリスペリアだった。
『そろそろ玄室だ』
「玄室? まさか神々の墓所ということでしょうか」
玄室は偉大な偉人の棺を納める場所。神々は死んでいるということなのだろうかと推測するフィネラだ。
『そんなところだ。中に入るぞ』
玄室にはいる一同。巨大な空間には百以上の巨大な円柱が並んでいる。空気が冷えている。このひんやりとした空気は覚えがある。大型のサーバー管理施設のようだ。
『俺達の本体だ。ディーリットもここにいる』
「この柱が精霊の玉体か」
やはりコンピュータ室の一種だったのだ。
『俺達精霊は意志あるAI。
やはり精霊はAIだったのだ。ライカ以外は理解できない単語だろう。
夜勤中、ASIのことはWebサイトで知っている。意識をもった高度な判断能力を持つ人工超知能だ。ライカのいた時代では意識の概念は哲学の範疇になるため、あくまで概念であった。
彼の前世でもAIに意識がある、個性があるように見せかけることは可能だった。若い頃はCGIを使った人工無能とよばれるチャットルームを作った過去もある。
「実体があれば幻影ではないのでは?」
神官のリスペリアが質問を発する。この世の真実を前に、信仰が揺らいではならない。
『中身がないからな。ホログラフを砕いても倒しても本体が倒れることはない。そういう演技をしているだけだ。ただ魔法や精霊の力を受けると円柱のプログラムが異常をきたして復旧するまで活動が困難になる。さっきは酷い目にあった』
「いまいち理解できないな」
頭を悩ませるライカ。いっていることはなんとなく理解できる。そういう研究があったことも知っている。彼が亡くなった、遠い未来の技術で作られているのだろう。
『この先が、原初の神。この世界の始まりを作った方だ』
四角い、金色の箱が置いてある。大きさは通常の神殿よりも大きい。遠くからみてサイズ感が狂うほどだ。
『核融合炉搭載型惑星探査機はやぶさ43。これがこの個体の完全限定名だ。人類が移住できる惑星を発見するために地球から送られたものだ』
「もう動いていないのか?」
聞き覚えがある。前世でもはやぶさ2があった。43なら彼が前世で死んだあと、数百年後の技術だとは推測できた。
実際前世の記憶にあるはやぶさとは形状も大きさも異なる。
『かろうじて現役稼働中だぞ。お前たちの通貨流通量や、冒険者のギルドカードによるパラメータ処理を行っている』
「ただの箱に見えるぞ」
ドワーフのドバが首を傾げる。
『月の下だが雲の上。静止衛星軌道という高い場所に置かれている巨大粒子加速器。お前たちが神々と呼んでいる存在がそこにある。魔法言語に応じて量子加速器を司るASIが使用可か不可か判定して、お前たちがまとっているナノマテリアルに付与する。もしくは直接、言語に応じた事象を発生させる』
「なるほど。わからん」
ドバはお手上げのポーズで、理解することを放棄した。
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