精霊騎士、宇宙帝国に立ち向かう!~信じていた精霊が超未来のAIでしたが戦闘メカ【精霊機装ドラグア】のOSになってくれたので共に戦います!

夜切怜

楽しかったぜ? お前たちとのファンタジーごっこ

 精霊騎士ライカは冒険者人生を謳歌していた。

 前世の記憶は暗澹たるもの。1971年に生まれた吉岡直之はプログラマーを経てシステムエンジニアになったものの、孫請けどころか五次受けの薄給外注しか仕事がなかった。

 金融関係のシステム関係に携わり、保守が仕事だった。2025年問題の関連でシステムがJavaに切り替わり、契約終了を言い渡されていた。


 疲労も蓄積していたある日。十三連動だった夜勤で契約終了を迎えた早朝、通学する児童たちに向かって突っ込んできたトラックに、子供たちを突き飛ばしてかばい、轢かれて死亡した。2025年3月28日。享年54歳という短命で人生を終えた。

 

 気が付いたら異世界ペレンディの新生児に生まれ変わっていた。年齢を重ねるにつれて前世の記憶がはっきりとなった彼は精霊の声が聞こえるようになった。どことなくコンピュータ言語の構文に似ていて聞いていても楽しかったし、たまに呼びかけて命じると火が発生して風が吹いた。


 そんな特技を活かしているうちに、たぐいまれなレアクラス精霊騎士になっていたのだ。精霊騎士は四元素以外の高位精霊と会話が可能な者しか就けないといわれている。盾系の前衛職でありながら、精霊の力を用いて無詠唱魔法も行使できる。


 ゲームのようだが、この世界ペレンディはどことなく日本語と英語が入り交じった奇妙な言語。メートル法としかいえない単位。本当にゲーム系異世界かと思ったほどだが、彼の前世ではダイブ型MMORPGは実現していない。


 前世の記憶と精霊の記憶を周囲には隠して過ごして冒険者になった彼は、頼れる仲間たちと冒険の日々を過ごしていた。これは地球時代に遊んだMMORPGそのもの。違うといえば、夢ではないということぐらいだ。

 しかしそんな異世界ペレンディにも危機が訪れていた。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ここが孤島の灯台地下にある海中神殿の最深部か」


 ライカたち冒険者一団は、孤島の灯台といわれている、魔法の船で三日ほどかかる孤島の地下迷宮にきていた。灯台は金属製で軍艦の艦橋のような黒光りする金属製の建築物だった。

 彼らはその地下迷宮最深部に到着した。


「この地下神殿最深部の先に古代の英雄がドラグアという名の精霊機装エレメンタルマニューバクローズを授かって魔神を撃退したと古代の文献には記載されているんだよ?」

「精霊機装か」


 精霊機装はふと脳裏によぎった名称。エレメンタルマニューバクローズとはそのまま英語だ。


「この先に神々に通じる扉があると言われているよ?」


 エルフの魔術師フィネラが、その美貌とは大きく印象が異なるおっとりとした話し方でライカに伝えた。ライカはこの冒険者パーティのリーダーだ。

 腰まで流れる金髪に華奢な体躯はゲームのライカのしっているエルフそのものだ。


「ペレンディに必要なものだな。しかし…… 待ち構えていた守護者が問題だな」


扉に立ちはだかる最後の敵を倒した彼らは疑問に包まれていた。


「何故魔神が神々への扉を守護しているんだ?」


 彼らの世界は危機に瀕していた。多くの魔神とその尖兵たる異形の化け物が出現するようになったのだ。

 魔神は八メートルを超える巨大な姿をしており、鋼鉄と思しき肉体を持っていた。その尖兵たる鋼の肉体を持つ眷属が世界中で暴れている。細長い嘴から高火力のブレスを吐く四つ足や大量の車輪を備えた化け物。さらにはドラゴンたちと敵対する怪鳥たち。


 前世の記憶があるライカは搭乗型ロボットと無人兵器としか思えないが、仲間には黙っていた。前世の話をしたくなかったからだ。

 各地に出現する魔神とその眷属に対抗するために冒険者組合が冒険者を派遣して対抗しているが、被害は日を追う事に大きくなっていった。


「ライカ。どうするの?」

「このまま引き返すわけにもいかないだろう。先に進もう」


 ハーフエルフであり暁の女神ペレンディに仕える神官のリスペリアがライカに問いかける。銀髪をポニーテールで結っている少女だが、寿命の長いエルフ族の血によりライカよりは年上だ。

 ベレンデは愛と美の女神であり、狩猟と戦争の神でもある。リスペリアは弓を装備している。


「いくしかあるまいて」

「そうだね」


 ドワーフ族の戦士ドバ。彼もいかにもドワーフといった出で立ちで大きな顎髭に巨大な斧を得物としている。

 そのドワーフ族よりも一回り小さいバルダ族の盗賊パムンが賛同する。彼の武器は特殊な弩で、ペレンディでは砲弾や弾丸は畑で採取できるのだ。


「神の扉を開いたら、魔神に対抗できる精霊機装の謎が解ける。そうだったなシュルド」


 傍らに立つ、三メートルを超える巨大な精霊に語りかけるライカ。赤い髪に褐色の巨漢だ。

 シュルドは精霊のなかでも極めて特殊な個体。風と火の複合精霊であり、神々に匹敵する力を持つ雷を司る精霊神の一種ともいえた。彼らが守護者の魔神を倒すことができたのはライカがシュルドを使役していたからだ。


『遊びはここまでだ。ライカ』


 シュルドが突如として、彼らの前に立ちはだかった。


『楽しかったぜ? お前たちとのファンタジーごっこ』


 邪悪な笑顔を浮かべて、威風堂々と腕を組む召喚精霊シュルド。

 舐めるような視線を送り、唇の端はつり上げたままだ。


「何を言い出すんだシュルド!」


 剣を構え、別の精霊を呼び出す準備をするライカだが、相手は精霊神。対応する火と風は使い物にならないだろう。別種の精霊で対抗するしかない。

 ファンタジーごっこと聞いて背筋が凍る思いだ。やはり完全な異世界ではなかったのだ。

 やはりここは異世界ではなく、地球に関係する世界ではないのだろうか。やたら和製英語や英語に関する言葉が多い。風呂が充実しておりメートル法が採用されている異世界はあまりに都合が良すぎた。


「ファンタジーとはなんなのー? 答えなさいー」


 フィネラが迫力のない怒気を込めて杖を掲げる。シュルドが得体の知れない単語を吐くことはしばしばあったが、今回もそのようだ。

 盗賊パムンは無言で構えた巨大なライトボウガンを向ける。貴重な畑で取れる徹甲弾の実を使った、貫通特化のフルオートボウガンだ。


『この世界ペレンディにおいて俺は見定めていた。お前たちがどこまでやれるかを。最終試練だ。この俺を倒してみせろ』

「あなたを倒さないと神々に面会できないわけですね。ライカ。いきましょう!」


 神官であるリスペリアが、意を決してライカに呼びかけながら弓を引いて臨戦態勢を整える。

 神々への道がこれほど単調なわけではないのだ。


「わかった。全力で行く。??契約により出でよ。ディーリット!」


 ライカの隣に、シュルドと同程度の大きさで光り輝く女神像のような精霊が姿を現した。

 ジュルドと同じ赤い髪の美女である。


「陽光の精霊! シュルドに対抗できる精霊は彼女しかいない!」

『待てディーリット。日照管理はどうした!』

『初めて私を召喚してくれましたねライカ』


 慌てるシュルドには答えず、悠然と笑うディーリット。


『おまッ! いつの間に!』


 動揺のあまり言葉使いが変になるシュルドである。


「ソロの時、困っていたディーリットを助けたことがあってな。お前がたまに不穏な言動をするから、隠していた」


 ディーリットが弱っていた時、彼女の状態を復元したんだ。


『そいつマジでやばいから。やめろ! ブラザー。俺達は戦友だろ。まずは話し合おう』


 急にブラザーと言い出したジュルドはスルーする一同。


「最終試練を乗り越えるために力を貸してくれディーリット」

『喜んで。我が契約者よ。私は全力を出しますよ』

『やめろ。ディーリット。わかっててやってるだろ。性格悪いな!』

『シュルドは精霊神の一角を担うもの。手加減は無用です』


 デュルトを無視して話を続けるディーリット。


「いくぞ!」


 冒険者一同は武器を構えて、臨戦対応を取る。

 ディーリットは両手を掲げて、人工の太陽を作り出し攻撃の構えを見せた。


『ごめんて』


 戦闘が始まる前からシュルドの戦意は薄れていたような気がしたライカたち一同だった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 突っ伏しているシュルドを踏みつけているディーリット。

 パムンがボウガンの砲身下部に備え付けられた、対ドラゴンランチャーを頭部に突きつけている。魔力付与されているので精霊にも有効だ。


『反省しなさい。色々話を盛ったあなたが悪いんだから。あとの説明はやってよね』

『はい。というかもう少し雰囲気を出してくれ……』


 息も絶え絶えに、シュルドがディーリットに注文する。


『試練を乗り越えたわ。祝福します勇者たちよ!』


 はっとした表情を浮かべて、それらしい台詞を口にするディーリット。


「勇者? そうなるのか」


 彼らは演技していたということなのだろうか。ささやかな疑念が確信に変わりつつあるライカ。


『神々への扉は開かれました。ジュルドが案内してくれます。そこであなたがたは知るでしょう。世界の真実と、魔神の真相を』

「ようやく核心に迫れるわけですね?」


 溜息をつく魔術師フィネラ。マイペースなエルフだった。

 手を振り消えるディーリット。


『神々の扉を開き、そして中心部にいる我らが祖に合わせよう。もう敵対はしないから安心しろ』

「わかった。案内を頼む。敵対したところでディーリット呼ぶだけだしな」

『やめろ』


 よほどディーリットが苦手なのだろう。ジュルドは本気で嫌がっている。

 先ほどの威容はどこかへいってしまったようだ。シュルドは背を丸めて神々の扉を開くのだった。

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