第12話 二人ぼっちの時間

 学校に来てしまったので、早速何か問題が降りかかってくるかと思ったが、午前中はなんだかんだ特に何事もなく過ごすことができてしまった。


 こうなってくると、少しだけ拍子抜けの感が否めないが、とはいえ、何もないのが一番だ。その方が、効率よくキセキへの対抗ができるというものだからな。


「それで、どうして屋上なのさ?」


「だって私たち、教室に居場所ないじゃない」


「確かにな。でも、別に教室の外に出る必要もないだろ?」


「そう言うメイトは、いつも教室にいないじゃない。どこに行ってるのよ」


「それは……いいよ。じゃあ明日案内してあげるよ」


「なかなか自信があるみたいじゃない。ま、今日は移動している時間もないし、ここで諦めなさい」


「はーい」


「出たわね、はーい。兄妹揃っての口癖なんじゃないの?」


「それはない。普段は言わないから」


「そんなに強く否定しなくても」


「妹と同類みたいに扱われるのは不服だ」


「それは流石に妹さんが可哀想な気がするのだけど」


「いいや、僕が可哀想だ」


「そもそも兄妹の時点で同類のような気もするわね」


「とにかくだ」


 なんだか、タレカはまだ言いたいことがありそうだが、僕はその先の言葉を待たずに、またしても持たされていた二つの弁当箱を取り出した。


 今朝、タレカに渡したのに、僕がまた荷物持ちさせられてるってどういうことなんだよ、と言いたい気持ちは山々だが、まぁ、上の兄弟姉妹の権力なんてこんなものだろう。


 個人的には、昼間僕が教室にいないことを、タレカが気づいていた件の方が驚きだ。他の生徒はどうせ気づいていないというのに……。


 それはそれとして昼休み。昼食を取る時間だった。


 最悪、何も食べられなくてもいいと思っていたが、タレカの体でそんなことをするわけにはいかないし、諦めてご相伴にあずかることにする。


 持たされてはいたが、作ったのはタレカだ。


「朝忙しいのに、よく作るよな」


「慣れれば苦でもないわよ」


「そういうものかね」


 話半分で聞き流しながら、僕は弁当箱を広げた。


 中身としては、お弁当としてありがちな感じだ。ご飯に卵焼き、ブロッコリーにミニトマト、タコさんウインナーみたいな、そんな感じの中身だった。


 とは言え、別に馬鹿にしているというわけでは決してない。朝のあの時間で、僕を着せ替えながら、弁当まで用意して、しかもそれを二人分やっているというのは、素直に驚嘆に値する。


「何よ。不満?」


「違くて。なんかその、ありがとう」


「……」


「いやだから、昨日の夕飯もそうだし、僕の方が手助けするような立場のはずなのに、何から何まで世話してもらって、ありがたいなって……」


 あまりこんなことを面と向かって言う事は無いから、照れて目を合わせられないのだが、こういう事は伝えておかないと、後々不和につながる、と師匠から言われている。


 あまりおざなりにしてもアレなので、感じた事は素直に伝えろ、とのことだ。苦手だが、あくまでタレカは依頼人。大事にしていきたいところではある。


 しかし、当然ながら、僕はそんなキャラではないし、今朝もいぶかしがられたばかりなので、タレカの反応遅く、驚いたように固まっていた。


「おーい。おーい。あのー? タレカさん?」


「はっ。今、ありえないようなことを言われた気がしたのだけど」


「おいおい。僕を一体なんだと思っているんだい?」


「ぼっちでしょ?」


「グハッ」


 胸を押さえながら、今度は僕の方が身動きが取れなくなる番だった。


「冗談よ」


「事実だけど」


「いいのよそんなこと。今は私たち二人ぼっちでしょ」


「ん……」


 さりげなく言われたことに、なんだかまたしても照れ隠しをしなくてはいけなかった。


 ほんと、学校で誰かと一緒にご飯を食べるのっていつぶりだろうか?


 そんなことはどうでもいい。朝と同じで、昼もそんなに時間があるわけでもないのだ。


「「いただきます」」


 と手を合わせて食べ始めて、パクパクと食べ進める。


 当たり前のことだが、出来立てホカホカというわけにはいかない。それでも、味が落ちているという印象はなかった。ほどよく冷えているからこそ、その時にあった味として味付けがされているように感じる。


「やっぱうまいな」


「食べるの好きなの? 独り言多くない?」


「人がせっかく飯をうまいと褒めているのに、言葉のナイフを突き立てないでほしいんだけど」


「いや、私だって、あまり人に食べてもらわないから……凝った料理でもないのにうまいうまい言われると照れるっていうかなんていうか……」


 ご飯を箸でつまんで口に含み、タレカがそこで、もそもそと何か言言いながら黙り込んでしまった。


 若干頬が赤らんでいるように見える。


 つっけんどんな態度をして、案外可愛らしいところもあるみたいだ。


「そういえば、午後の授業。どうするか考えてるんでしょうね」


 話題を変えるように、突然タレカが切り出してきた。


 はて、午後の授業?


「え? なんだっけ? 今日って何かあったっけ?」


「はあ……」


 先ほどまで、褒められて照れていたはずのタレカは一瞬で消えてしまい、いつもの調子で冷たいため息を吐き出した。


 僕、そんな落胆されるような事したかな?


「午後の授業、体育からでしょ」


「は!?」


「色々と気を回してくれてるのは、それも込みで考えてたからだと思ったのだけど」


「いや待って、明日も大丈夫とか言ってた気がするけどそういうこと? 嘘。やばい。何も考えてなかった」


 体育の何がやばいって、着替えがある。

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