第4話:二人のキャンパス・ライフ

 統一暦1924年の二日後、ターニャとアルフレットは準備を整えてライン戦線から離れようとしていた。


 その間にターニャは部下であるセレブリャコーフを後方への転属させ、一方のアルフレットは彼女に反発した伍長、二人を最前線に戻したのであった。


「いよいよ出発かね?」


 鉄条網越しにターニャとアルフレットは第203航空魔道大隊の指揮官、シュワルコフ大佐が笑顔で声を掛けられていた。


「これは、シュワルコフ大佐。はい、戦線を離れるのは少し心苦しいですが」

「いいんだ、デグレチャフ少尉。我々の事は気にせず勉学に励んでくれ。アルフレット大佐も頑張りたまえ」

「はい、ありがとうございます」

「大佐殿もお体にお気を付けください」


 ターニャとアルフレットはシュワルコフに向かって笑顔で敬礼し、シュワルコフも笑顔で敬礼する。


「ありがとう。二人に神のご加護があらん事を」


 それを聞いたターニャは少し笑顔を崩す。


「はい・・・ご加護があらん事を」


 ターニャがそう言うとアルフレット共に荷物を持って野戦基地を離れる。そして二人は四両編成の蒸気機関車に乗り込み、帝都へと向かった。



 朝の帝都ベルン、とあるアパートの一室で目を覚ましたターニャはラジオを掛けながら水で顔を洗い、歯を磨いていた。


 一方、アルフレットはターニャと同じアパートの上の階におり、洗顔と口を濯ぐとキッチンで朝食を作り、食べる。


 そして二人は軍服に着替え、軍帽を被り準備を終えると教本の入ったバックを持って部屋を出ると下の階で笑顔で出会う。


「おはよう、ターニャ」

「おはよう、アルフレット」


 二人は共にアパートを後にし、学校へ行く途中で談笑をしていた。


「それで俺の訓練部隊に配属された、その上級貴族のボンボンが射撃訓練で銃声を聞いただけでビビッてションベンを漏らしてな。それで部隊の上官にこっぴどく𠮟られてな」

「アハハハハハッ‼そいつは除隊か左遷だな」

「ああ、そうさターニャ。まぁ左遷だけ済んだけど、そいつは」


 などと笑い合っていると帝国士官学校へと着くのであった。


 廊下をターニャとアルフレットが歩いていると前から教本を持った若い男性士官候補学生が銀翼突撃勲章と柏葉・剣付き鉄十字勲章を着けたターニャとアルフレットを見て、ハッとなり傍に避け二人に向かって敬礼する。


 それを見た二人もその学生に向かって敬礼をする。


 その後、二人は学ぶ学科の為に別れる。ターニャは戦場での軍法を受け、アルフレットは戦術を受けていた。


「では諸君、この敵防御陣地を一個旅団でどうやって攻略する?」


 男性教官からの問いに席に座っていた一人の若い男性士官候補学生が右腕を上げて、立ち上がる。


「はい!まず魔道兵士による観測で飽和砲撃を行い、そして歩兵を突撃させれば攻略出来ます」


 だが、その答えに教官は険しい表情で首を横に振る。


「それは基本戦法だ!だが、一個旅団だけでは逆に敵の機銃などで全滅するぞ!」


 さっきの学生が座った瞬間、アルフレットが右腕を上げ立ち上がる。


「教官、一個旅団は機械化されていますか?」

「ああ、機械化されている」

「では、友軍の航空戦力はありますか?」


 その問いに教官は頷く。


「ああ、あるとする」

「では、教壇で説明してもよろしいですか?」

「いいぞ、大佐」


 アルフレットは黒板へと向かい指示棒と白チョークで黒板に書かれた戦場図で説明を始める。


「まず、航空機による急降下爆撃を行い、その後に魔道兵士による観測砲撃を行います。そして航空魔道大隊によるトーチカなどの破壊、そして戦車部隊を突撃させ敵を敗走へ追い込めます」


 アルフレットが前世で培った近代軍事戦法を異世界の兵科に当てて言う。


 それを聞いていた教官や他の学生達は彼の天性を超えた才能に驚きで固まっていた。


「あの・・・アルフレット大佐、その戦術は・・・君が生み出したのか?」


 教官からの問いにアルフレットは自信満々な笑顔で頷く。


「はい!これは私が生み出した機動戦を主体とした新たな戦術、名付けてブリッツクリーク、電撃戦です」

「なるほど。では、次にもし敵が我が軍の陣地に攻めて来たら大佐ならどの様な防衛戦術を構築する?」


 アルフレットは下顎を右手で触りながら考え、すぐに前世の軍事戦術を引き出す。


「では、新たな防御戦法、縦深防御じゅうしんぼうぎょ戦術を使います」

「その、縦深防御じゅうしんぼうぎょとはなんだ大佐?」


 アルフレットは書かれた戦場図に書き加えながら縦深防御じゅうしんぼうぎょを説明する。


「まず練度が低い部隊を前線に置き、実戦と練度を積んだ部隊を後方に置きます。そして進軍する敵部隊を出来る限り足止めをしつつ、反撃の時間を稼ぎます。さらに前線が突破される危険があればすぐに後方に退却し攻撃を続行します」


 そしてアルフレットは防衛線が突破した図を書く。


「そして例え敵が防衛線を突破されても長く足止めさせた敵は大損害となり、進軍は停止します。それを好機に敵部隊の背後を電撃戦で挟撃し退路を断ち最後に包囲した敵部隊を殲滅します」


 アルフレットの新防御戦術に教官や他の学生達は感心、彼に向けて笑顔で拍手を送る。


「大佐、授業を終えたら今回の授業で君が提示した戦術を論文としてまとめておいてくれ」


 上官からの論文制作の指示にアルフレットは明るい笑顔で姿勢をビシッとして敬礼をする。


「分かりました!教官殿!」


 それと同時に授業の終了を告げるチャイムが鳴る。


 一方、ターニャは他の学生達が教室を後にする中で机に携えていたモンドラゴンM1908を置き、手入れを行う。


「デグレチャフ君」


 ターニャは手を止め声のする方向を向く。


「ウーガ准佐殿。何か?」

「なぜいつもライフルを?」


 ターニャは手入れをしながらウーガの問いに答える。


「アルフレット大佐の影響です。常に銃の手入れをしているので、言ってみれば銃の手入れをする彼の姿こそ立派な軍人のやるべき事だ確信したのです」


 ターニャの答えにウーガは納得した。


「なるほど。さすが最前線で実戦を経験した者は違うな」


 そう言いながらウーガは教室を後にする。


(これは備えだ。私とアルフレットは存在Xに真っ向から喧嘩を吹っ掛けた。いついかなる時に存在Xから攻撃を受けるかもしれない。備えをしておくべきだ)


 そう心で呟きながらターニャは分解したモンドラゴンM1908を組み直し動作確認をするのであった。



あとがき

原作とは若干の相違点がありますが、ifなのでこう言った違いを取り入れて行きます。

クリント・イーストウッド監督の戦争映画『父親たちの星条旗』と『硫黄島からの手紙』は1945年の硫黄島の戦いをベーストした作品です。是非、観て下さい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る