第3話:完全な終結プラン

 統一暦1924年の三日間後、帝国の首都ベルンにある軍総司令部では多くの将校達の中でゼートゥーアは椅子に座り、葉巻を吸いながらターニャとアルフレットに関する処分を決定していた。


「二人は帝国士官学校に入学させる。入学の準備の為に二人はしばらく戦場に留まる事になるが、致し方無い」


 するとゼートゥーアは資料書と作戦地図が置かれた大きなテーブルに大佐の袖章、肩章、襟章、そして指輪入れの様な箱を置く。


「それとアルフレットには全ての敵戦車撃破の戦果と適切かつ高い指揮能力から大佐に特進、柏葉・剣付き鉄十字勲章を彼に授与させよ。そして彼を新組織された第1予備装甲騎兵旅団の指揮官に任命させよ。いいな」


 そう言うとゼートゥーアは吸っていた葉巻を灰皿で消すのであった。


 二日後のライン戦線の帝国軍野戦基地、アルフレットは野戦司令部のテント内で司令官の初老の男性少将から大佐の特進と柏葉・剣付き鉄十字勲章を受けていた。


「貴君はこの前の戦闘の戦果と指揮能力が高く評価された事でここに柏葉・剣付き鉄十字勲章を授与する。それと同時に大佐へと特進とする」

「は!喜んで授与します!」


 アルフレットはビシッとした姿勢で敬礼をする。そして少将は笑顔でアルフレットの着ている軍服の襟の前に柏葉・剣付き鉄十字勲章と大佐の袖章、肩章、襟章を付ける。


「それとアルフレット大佐、貴君は本日から新たに編成された第1予備装甲騎兵旅団の指揮官に命ずる」

「は!喜んで拝命いたします!」


 再びアルフレットは敬礼し、二人は笑顔で握手をするのであった。



 その後、野戦基地の後方へ向かったアルフレットは新編成された第1予備装甲騎兵旅団の現状を見て言葉を失っていた。


「おい!おい!おい!噓だろう⁉Ⅱ号戦車D型とⅢ号戦車E型が合わせて十数両に対してⅠ号戦車B型が全てを占めているなんて!上は若い戦車兵に死ねって言っているのか!」


 するとアルフレットの険しい表情と態度に副旅団長の男性中佐が苦笑いをする。


 そしてアルフレットはクルっと振る向き、副旅団長に向かって命令をする。


「中佐!報告書を頼む!『配備されたⅠ戦車は全てエンジン不良で行動不能。こちらで全て民間にスクラップとして売却する。その際に発生した売却金で新たな戦車と銃火器などを購入する』と上層部に伝令しろ!大至急だ!」


 それを聞いた副旅団長の中佐は驚く。


「大佐!正気ですか⁉そんな独断専行をしたら軍法会議になりますよ‼」

「構わん‼根回しを俺がするからさっさと報告しろ!いいな!」

「あ!はい!」


 アルフレットの気迫に副旅団長の少佐はクルっと振り向き急いで旅団用の野戦司令部テントへ向かう。


 それからアルフレットの根回しと独断専行で旅団に配備されていた全て全てのⅠ号戦車B型をスクラップの名目で売却、そして帝国領ダキアにあるチェスコ自動車工業社CAI社が開発した38(t)戦車をⅠ号戦車B型に置き換え、更に新型のKar98bライフル、MP18サブマシンガン、ZB30軽機関銃、ZB Vz37重機関銃を購入した。


 このアルフレットの独断専行は軍法会議に掛けられておかしくなかった。だが、彼のこの行いはあの敵残存兵力を敗走させる事となった。



 それから二週間が経過し、本部からターニャとアルフレットに帝国士官学校への入学通知が届く。


「なるほど。安全な後方へ下がって学びを受けろか」

「安全じゃないぞターニャ。俺達は神に喧嘩を吹っ掛けたんだ。奴らは如何なる手を使ってでも俺達を殺すきだ」


 野戦テントの食堂で向かい食事をしながら通達書を読むアルフレットとターニャ。


「そうだな。アルフレット、君の完全な戦争終結プランを聞きたい」


 ターニャからの問いにアルフレットは食事の手を止め、真剣な表情で答える。


「俺の戦争終結プランはこうだ。『勝者も敗者もいない戦争の終結』だ」


 アルフレットのプランにターニャは一瞬、驚くが続ける様に問う。


「そのプランの内容は?」

「ああ、まず第一段階、帝国の意志改変。今の帝国は勝利を求めている。だが、勝者が敗者に従う形ではいつまでんも争いの連鎖は終わらない」

「だから、勝利以上の価値ある目標を立て共通意識を国民と軍全体に持たせる」


 ターニャの鋭い洞察の答えにアルフレットは静かに頷く。


「ああ、そうだ。具体的には『戦争の歴史に終止符を打った英雄達』と言う壮大な目標を立て持たせる」

「なるほど。確かにそれなら勝利以上の価値あるものだな。で、第二段階は?」


 ターニャの問いにアルフレットは地図を取り出し、テーブルに広げる。


「現在、帝国はライン戦線と北方戦線を抱えた二正面作戦となってる。このままでは何時いつ、戦線が崩壊するか分からない。そこでプラン315を元に機械化された機動力の高い一個軍による集中運用で戦線を押し戻し、強固な防衛線を築き膠着状態を作る」

「そっか。膠着状態となれば世界に向けて帝国は集団的自衛権を行使しただけと言う面目が立つ」

「そうだ。後は局地戦に移行すれば双方の被害は小規模で抑えられるし、のんびりとした空気が双方の戦意を消失させてくれるはずだ」


 するとターニャはある事に閃き、ニヤリと笑顔でアルフレットに言う。


「当てていいかな、アルフレット」


 ターニャの問いにアルフレットは笑顔で頷く。


「第三段階は帝国と交戦する国のトップに近い人物と極秘裏に接触し、私達の目的を伝える」

「そうだ、流石だよターニャ。帝国のみならず敵国にも同じ意識を共有させる。そうすれば帝国と共に戦争の歴史に終止符を打った友となる」

「まさに『昨日の敵は今日の友』だな。アルフレット、お前の計画は聞くだけで壮大で無謀だな」

「じゃやめるか?」


 しかし、ターニャはあの狂気に満ちた恐ろしい笑顔で首を軽く横に振る。


「まさか!私の保身の為に。そして、あのくそったれな存在Xに一泡吹かせるまでは降りるつもりはない‼」

「じゃ、決まりだな」

「で、プラン名は?」

「プラン名か・・・」


 アルフレットは右手で下顎を触りながら少し考え、閃くと笑顔でターニャにプラン名を言う。


「ヴィーナス、金星計画だ」


 プラン名を聞いたターニャはフッと笑う。


金星ヴィーナス計画とは、安直だな」

「確かにそうだが、金星は別名、『ルシフェル』。ルシフェルは最高位の大天使であり、神に反逆し堕天使した存在だ」


 アルフレットからの金星をプラン名に選んだ理由にターニャは納得する。


「なるほど。では、我々は神に逆らいし堕天使となろう」

「長い戦いになるが、頼むぜターニャ」

「お前もな。早く死んだら承知せんからなアルフレット」


 そして二人は笑顔で牛乳に入ったコップで乾杯をするのであった。



あとがき

いよいよ始まる神、存在Xに倒する反逆戦争。

アルフレットの立てた計画は架空戦記の先駆けとなった小説『艦隊シリーズ』をイメージモデルにしています。

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