第2話
人族と魔族の覇権を賭けた「人魔戦争」
その発端は、北の大地にひっそりと暮らしていた魔族達の「魔国」の王、魔王にとあるスキルが発現したことであった。
【魔人の波動】と呼ばれるそのスキルは、魔の眷属たる魔物とも呼ばれるモンスターをその支配下に置き、魔族と呼ばれる人型の種族にも精神的影響を及ぼす強力無比なスキルだった。
元々、魔族はこの世界の住民ではなかったと言われている。
太古の昔に魔界と呼ばれる異世界より現れた「魔人」の侵攻の際、それに従う形で召喚された者達が今の魔族の祖先とされる。
膨大な魔力を誇る魔人とその眷属である魔族、そしてやはり召喚された魔界の野獣たる魔物の侵攻は、情け容赦なくこの世界で猛威を振るった。
この世界の人間やエルフ、ドワーフといった人族達も立ち向かい抵抗したものの、強大な魔力とその魔法の力の前にいくつもの文明が滅び、人族の滅亡も間近であった。
だが、その事態は急変する。
この世界を征服し、人族の滅亡を目前としながら、突如魔人は魔界へと戻り姿を消したのである。
魔族も魔物も、そのままに置き去りにして。
魔人の召喚によって精神的に支配されていた魔族はその支配より脱し、魔物はその統制を失い好き勝手に暴れ始めた。
召喚によって有無も言わさず異世界に呼び出され、戦わせられた魔族達は我に返り呆然とする。
元の魔界にも戻れず、人族は殺る気満々で迫ってくる。
魔族、もはや涙目である。
これを機に何とかその勢いを盛り返した人族によって、魔族は最初に魔人が降臨し、荒れ果てた土地となった北の大地へと追いやられた。
そして、事態は硬直状態を迎える。
人族もまた、魔族を完全に淘汰するだけの余力を残してはいなかった。
そして、月日は流れる。
長い時を経て、少しづつ残された人類と魔族は交流し、また交配してゆく。
人族は魔族との血の交わりにより魔力を操るすべを獲得し、魔法を身に付けていった。
それに相反するように、魔族の強力な魔力とその魔法もまた弱体化してゆく。
また、人族、魔族共にジョブ、スキル、レベル、ステータスといったものが発現していったのもこの頃であった。
元の住人たる人族に限らず、それらは本来異邦人たる魔族にも発現し、それは戻る術の無い魔族への神の慈悲であると言われた。
こうして新しい世界律は、この世界に生きとし生けるもの全てに浸透していった。
そんな魔族の末裔達が暮らす北の「魔国」の王、魔王。
長い時を経て尚消えることの無い魔族への潜在的な迫害と、厳しく荒れた大地である魔国に暮らさねばならぬ、遙か昔から変わらぬ現状を憂いに憂い、恨みに恨んだ魔王に【魔人の波動】が発現したのは、神の気まぐれかはたまた魔人の執念か。
これこそは正しく天啓であると狂喜乱舞した魔王は、早速スキルを行使し魔族と同じようにこの世界に順応した魔物であるモンスターを掌握、人族の国々へ宣戦布告し侵攻を開始した。
血の交わりにより、魔族の完全精神支配は出来ず、思考誘導程度にしか効果が無かったのは残念であり、後の誤算であったが。
突然の侵攻に、険しい大山脈を挟んで魔国のすぐ南に位置する小国家群連合は、その体制故の初動の遅さに加え、元々東の王国、西の帝国の両二大大国の「緩やかなる敵対的緊張」に緩衝地帯としてさらされていたこともあり、魔国の攻撃に呆気なく敗走、壊滅した。
事ここに至り、東の王国と西の帝国は、小国家群連合の南に位置する聖教国の仲介を得て、国家に属さない独立組織である冒険者ギルドをも巻き込んだ共闘態勢を構築する。
魔国の侵攻開始より五年、人族の連合軍は多大なる犠牲を払いながらも、なんとか魔国との境界線たる大山脈までその戦線を押し戻すことに成功する。
しかし、大山脈を越えての大軍の進軍は、更なる多大なる犠牲を伴うのは明白であった。
これ以上の犠牲を望まず、また、戦力を出来るだけ温存し戦後の覇権も優位に進めたい各国の思惑により、少数精鋭によるピンポイントの魔王討伐作戦が立案、実行されることとなった。
魔王討伐隊の誕生である。
土の民たるドワーフ達の協力の下、秘密裏に大山脈を越えた魔王討伐隊は速やかに魔王の住まう城へと侵攻する。
穏健派と言われる【魔人の波動】の影響の少なかった、戦争反対派の魔族の内紛、協力もあり、最終的に魔王と直接対峙し戦ったのは、後に「魔王討伐パーティー」と呼ばれる五人。
一人は、東の王国の魔道大隊に属する、「脳筋の魔術師」とも「撲殺魔導師」とも呼ばれる魔法使い。
一人は、聖教国の教会の巫女であり、「聖女」と呼ばれる神官。
一人は、西の帝国の出身で暗部とも称される情報局の人間はないかとも噂される、「静かなる貴公子」と呼ばれる盗賊。
一人は、冒険者でその赤い髪とスピードから「赤い閃光」の二つ名を持つ女剣士。
そして、異世界人なのではないかとも言われる、唯一無二のユニークジョブ【魔法剣士】である謎の冒険者。
死闘の果て、この五人により魔王は討ち取られた。
戦後の混乱に飲み込まれながらも、世界は一応の平和を取り戻したのであった。
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