020:2代目百鬼会
020:2代目百鬼会
百鬼会は奈良県制覇の記念にドンチャン騒ぎをしたいところではあるが、それを帳消しにするくらいの訃報が百鬼会全体に広がった。
「なっ!? 次郎吉会長が死んだ!? 少し前までは、あんなに元気だったのにですか?」
「せや。元々脳梗塞やらをやっとって危ない状態やったんや………トドメになったんが心筋梗塞や。苦しんだまま亡くなってるとこをご家族や発見されてる」
「それは家族も辛いでしょうね………それじゃあこれから百鬼会は、誰が仕切っていくんですか? 跡目争いも決着ついてませんよね?」
「まだまだ揉めるやろうな。本部でやってる会議の内容なんて、阿鼻叫喚って感じやろう。まぁそれでも2代目は実子で、ほぼ確定やろうな。」
これからの百鬼会の事を考えれば、相当揉める事は確定していて心配になるくらいだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
兄貴が言っていたように幹部が揃って、2代目は山口のオジキが良いとか、会長の意思を尊重してこそ任侠だとかって阿鼻叫喚って感じである。
「絶対若頭以外さ、2代目継承でぎる人間はいねぁのは明確だべが!! なんで百鬼会にも入っていねぁ人間、2代目さ就ぐなんて納得でぎるが!!」
「兄弟ん言う通りや!! ただんカタギが、2代目になっち日本統一ぅ成し遂げらるるたあ思えん!!」
菅原のオジキと、加守田のオジキが筆頭になって2代目は絶対に山口のオジキだと主張してくる。
2代目に指名されている先代会長の実子である〈百瀬 登吉〉は、難波工業という芸能事務所の社長をやっている一般人、つまりはカタギの人である。
そのカタギの登吉さんを、いきなり日本屈指のヤクザ組織である百鬼会の会長にすえるのは、とてもじゃないが理屈に合わないとも主張してくる。
「お前たちが俺ば2代目にしたかとはありがたか事ではあるばってん、俺には荷が重かばい。やけん登吉しゃんば、俺は会長に推薦したかて思っとーと」
「荷重いなんて、とんでもないですよ!! 若頭の裁量があれば、2代目で日本統一いげますよ!!」
跡目争いの中心人物である山口のオジキは、自分では荷が重いから登吉さんの方が向いていると推薦する。
しかし菅原たちが2代目になったら、上手くやって2代目で日本を統一する事ができると力説してくるが、明らかに山口のオジキは悲しそうな顔をしている。
「菅原補佐。山口の兄貴も、先代会長も同じ人を推してるんやから、その人でええですやん」
「ふざげだ事抜がすな!! これはおらだづの頭を決める話し合いなんだぞ。ほいな軽々しく発言するな!!」
「どこが軽々しい発言なんですか!! 会長も若頭も言うてるのに、反対する方が組の為になれへん思いまっせ!! そないにアンタが百鬼会の主導権を握りたいんですか!!」
「何だど!! こごでブチ殺しても良いんだぞ!!」
オヤジと菅原のオジキが、今にも殺し合いが始まるんじゃないのかというくらいにピリピリし始める。
このままでは正統派の人間たちが、菅原のオジキたちを説得しても時間の無駄で終わる可能性が高いと、ここにいる誰もが分かっている。
そんな時に会議室の扉がバンッと開いて、会議中だというのに誰がきたのかと立ち上がって警戒する。
「なっ!? 登吉さんが、なんでここに………」
「おみゃっちが、何やら俺の就任を渋ってると聞いたでな。そんな事をしてる時間があるのか? 俺っちは日本統一を目指いてるんじゃにゃのか?」
なんと入ってきたのは、現在の話題の中心人物である先代会長の実子〈百瀬 登吉〉だった。
どうやら自分を会長にするのか、それとも山口のオジキを会長にするのか、これを決めるのに時間をかけ過ぎていると日本統一に支障が出ると全体を叱る。
そのまま先代会長の座っていた席に、堂々と座って菅原のオジキたちの方をギロッと睨むのである。
「良いか? 跡目争いで時間を使ってるほど、俺っちには時間が有り余ってるわけじゃねえ………だもんで、今ここで就任に関する多数決を行なう!!」
「こいな大切な話、多数決で決めるんだが!! それごそあり得ねぁーべ!!」
「じゃあダラダラと続けるつもりなのか? それじゃあ何の為に執行部なんて作ってるだ!!」
俺でも執行部の人たちは、怖いのに登吉さんは臆する事なく多数決で決めると宣言するのである。
しかし菅原のオジキは、大切な事を決めるのに多数決なんてあり得ないと反論するが、これ以外に早急に決める方法はあるのかと聞いて黙らせる。
そのまま多数決が行なわれたが案の定、圧倒的な差で正式に〈百瀬 登吉〉が2代目百鬼会会長の地位に就く事が決まったのである。
「こいな事納得でぎるが!! おらだづは退出させでもらう。こいな事は認めねぁーぞ!!」
納得できないまま菅原のオジキたちは、席を立って部屋を後にするのである。
異様な空気のまま会議は新たな会長を迎えて、これからの方針についての話し合いに代わる。
「俺は父さんの意思を引き継いで、この百鬼会を日の本で1番の国にして見せる。おみゃーっちにも力を貸して欲しい」
登吉会長は立ち上がると、先代の意思を引き継いで百鬼会を日本で1番の組織にして見せると宣言し、その為には執行部たちの力も必要だという。
そして頭を下げて手を貸して欲しいと頼んだ。
執行部の人たちは立ち上がって、頭を上げて欲しいと頼んで、自分たちで良いなら頑張ると表明する。
独特な空気のまま2代目百鬼会の会議が終了する。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺と兄貴は会議が終わった後に、どんな風になったのかと気になってオヤジのところに話を聞きに行く。
すると普段は頬も膨れているのに、会議から帰ってくると頬がコケていたのである。
そして俺たちは会議であった事の全てを聞いて、それは気苦労が続きそうだなとオヤジを気遣う。
「それで菅原のオジキたちは大丈夫なんですかね? このままだったら、遺恨を残して分裂してもおかしく無いと思うんすけどね」
「花菱が思てる通り、このままだったら百鬼会が二分されてもおかしゅうはあれへんな。オヤジは、どないしよう思てるんでっか?」
「どないするんですかって言われてもな………頭がパンクしそうや」
このままだったら百鬼会が二分されて、対立関係になってもおかしく無いと俺たちは考えている。
オヤジに関しては考えたく無いと、明らかに現実逃避をしようと机に突っ伏している
そんなオヤジの気持ちと裏腹に、俺と兄貴の嫌な予感が当たる事になるのである。
「はっ!? 菅原のオヤジたちが、百鬼会を脱会して新しい任侠団体を作った!?」
まさかまさかの事だったのである。
菅原のオジキたちは、本部に来る事なくファックスだけで百鬼会を脱会する旨と、新しい任侠団体を創設する事を宣言するものだった。
「まさかオジキが、ここまであほやったとは思えへんかった。それに油断でけへん組織を作りよって」
「そんなに油断できないんですか? こっちの方が、ギリギリですけど人数は勝ってますよね?」
「和歌山に本拠地を置いて、和歌山の老舗組織やらを吸収してるみたいなんや」
まさか跡目争いが脱会からの敵対組織というところに着地するとは思っていなかった。
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